研究課題/領域番号 |
15K03046
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
太田 好信 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (60203808)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 白人性(白さ) / リベラリズム / シャモ / ヤマトゥ / ハワイ大学新聞 / H-K トラスク / J カーター |
研究実績の概要 |
本年度は、前半に先住民から見た白人性に関する文献資料の整理を行った。植民地主義の歴史をもつ地域では、植民する側(支配者側)が先住民を対象化する一方で、自らの視点を可視化することはない。それを可視化するのは、先住民(被支配者)が植民する側(支配者)の視点を名指すときである。例をあげれば、沖縄県下で流通するヤマトゥということば、北海道でアイヌ民族が和人を呼ぶときに使うシャモということばがある。ヤマトゥやシャモは、国民間の差異を強調し、対立を生むとして政治的に忌避される場合もある反面、植民地主義の歴史を現在へと伝えることばでもある。 以上の文献資料からの成果を踏まえ、後半は国内調査と海外調査の両方を行った。まず、国内調査では、北海道のアイヌ民族の人びとがシャモについて語るとき、どのような表現を使うか、その実地調査をした。インタビューで判明したのは、シャモということばがアイヌ民族の間では広く流通しており、それに代替するといわれた和人、シサムを使う人はごく少数であった。シャモは、民族を名指すというより、北海道開拓という植民地主義の歴史を内包することばであるから、いまでもその歴史を記憶する表現として流通している。沖縄では、ヤマトゥということばが、アイヌ民族のシャモに対応する。現在、沖縄県では行政も参加し、「シマクトゥバ(沖縄諸語)の復興」を推進している。現地調査で判明したのは、言語の復興が多様性に価値を見出す日本本土社会での流れとは異なり、昨今の政治的案件に呼応するかのように、沖縄県民のアイデンティティの拠り所として機能し始めていることが判明した。 海外調査(文献調査)では、先住民性と平等を担保する多様性の尊重という価値観が対立する局面を、「ハオレ」(白人)という呼称をめぐってハワイ大学で起きた事件を取り上げ、学生新聞の記事を振り返えり、その事件に内在する論理を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、研究計画書に記載した「平成27年度の計画」どおりに進行できた。本研究の計画段階で予想していたが、国内での現地調査から、アイヌの人びとは現在ではアイヌ語を日常生活では用いないにもかかわらず、シャモというアイヌ語表現は、頻繁に登場する。この表現がアイヌにとり記憶を担う大切なことばであることも確認できた。同様のことが、沖縄県下のヤマトゥということばでも確認できた。これらのことばは、民族という集団を指す排他的表現ではなく、人びとの記憶を内包する歴史的意味をもつことばであることが判明した。これは、当初の予想を超える成果といえる。また、海外調査でも、ハワイ大学ハミルトン図書館に所蔵されている1991年度のハワイ大学新聞(Ka Leo Hawai'i)をマイクロフィルムではなく、原本で確認できたのは予想を超えた成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究計画では、計画書に記載したとおり、国内調査と海外調査を行う。国内調査では、琉球民族独立運動の動向を調べる。本土よりも沖縄のメディアでの露出度が高いこの運動ではあるが、沖縄県においても反発は強い。その反発はどのような論理によっているのかを調査する。また、アイヌ民族が日本社会における重要なアクターとして復活した段階で、この復活に対する反動も起きている。反動は、どのような論理のもとに展開するのかを探る。メディアだけではなく、アイヌの人々とのインタビューにおける言及など、生活に密着した語りを調査対象とする。 海外調査では、ハワイ先住民たちの主権運動の一つの帰結として、支配者にはハオレだけではなく、ハワイ社会で急速に力をつけた日系人も含まれる。つまり、植民者(settlers)という考えが流通し始めた。そのような状況下、新たに支配者として可視化された日系人は、主権運動をどのように捉えているのか、ローカルというこれまで先住民と日系人の両方を含めたアイデンティティではまとめあげることが困難な、より複雑な状況を丁寧に調査する。
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