本研究の中心的問いは、白人性と先住民性との相互関係を歴史的、ならびに民族誌的手法から明らかにすることである。その目的を達成するため、それぞれ異なった歴史的背景をもつものの、緩やかに連携を保持してきている3つの場(サイト)を比較検討した。1)ハワイ州の主権運動、2)北海道のアイヌ民族による権利回復運動、3)琉球民族による独立運動。とくに、2)と3)は、日本の周縁地域における歴史的不正義を告発する運動となり、文化人類学的調査においても無視できない社会的状況を形成している。 現地調査、文書館における文献調査から明らかになったことは、次のとおりである。1)これらの地域ではいずれも先住民性が歴史の対抗的概念として登場していることである。つまり、入植者植民地主義(settler colonilism)が(P.Wolfeが述べるように)出来事としてではなく、プロセスとして継続している。そのような状況において、植民者と被植民者の差異が重要な境界として機能している。白人性は、この境界を不可視にしておこうという歴史的作用をもつ。すでに、この調査の冒頭で明確になったが、白人性とはけっして人種的カテゴリーだけではなく、パワーの不可視性を語る隠喩となっていた。不可視な存在を可視化する作用が、先住民性であった。2)日本においても、アイヌ民族、ならびに琉球民族というカテゴリーが対抗的歴史概念として、現在、意味をもっている。対抗的歴史概念は、しばしば文化的多様性などのリベラルな概念により整序されがちな現実を入植者植民地主義が作り出した歴史をわたしたちに認識させることによって、新たな国会観を提示するともいえる。 近代国家として150年近い年月を経た日本であるが、その歴史をどのようなことばで捉えるか、どう物語るかを、先住民性という概念は問うことになる。
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