研究課題/領域番号 |
15K03049
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研究機関 | 高知県立大学 |
研究代表者 |
飯高 伸五 高知県立大学, 文化学部, 准教授 (10612567)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | パラオ / 戦争 / 慰霊 / 記憶 / 観光 / 文化人類学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、太平洋戦争の戦跡が一方では娯楽を主目的とした観光産業のなかで消費されつつ(レジャー化)、他方では戦争当事国のみならず現地社会でも歴史遺産として認識され価値付けられている(ヘリテージ化)という両義的な状況をミクロネシア地域の民族誌的事例から解明することにあった。研究2年目の2016年度は、パラオ共和国での現地調査および国際学会での中間的な発表に重点を置いて調査研究を実施した。 パラオ共和国のペリリュー島では、日本の旅行会社による戦跡観光ツアーに参加しながら、ツアーガイドが紡ぎ出すストリーの記録および観光客の観光行動の参与観察を行った。戦後70年という時代の節目に相前後して、日米からの訪問者の側でも、パラオの地域社会の側でも、それぞれ異なった観点から戦跡に対する関心の高まりがみられることがわかった。また、パラオ共和国のバベルダオブ島では、旧日本軍関係の施設跡および日本側の諸団体が戦後建立した慰霊碑の現状を調査した。パラオの地方政府のなかには、これらの遺跡・遺物に対する管理を強め、パラオの伝統的な遺跡と並んで遺産ないし観光資源として位置づけているところもあることがわかった。 第22回太平洋史学会(2016年5月、グアム)では、主に日本側の慰霊団の活動に注目して研究発表を行った。そして、戦争当事国の日米と戦争に巻き込まれた地域社会との間では、太平洋戦争の戦跡をめぐる視点にいかなる齟齬があるかを検討し、他地域で太平洋戦争の記憶や戦跡観光の現状を調査している研究者と意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目にパラオ共和国と米領グアムで実施した概括的な調査を受けて、2年目はパラオ共和国において個別の事例収集を実施することが出来たため、「おおむね順調に進展している」と考えている。パラオ共和国で実施した現地調査に関しては、調査期間が限られていたため、文化人類学的観点からのコミュニティ調査が十分に実施できたとは言い難いが、観光業者、観光客、地方政府の3者の観点から戦跡観光の現状に関する民族誌的データを収集できた。したがって、研究計画に記した構想を概ねカバーできている。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年分の研究成果を踏まえて、最終年度はパラオ共和国を中心に現地での補足調査および研究成果の発表に向けた研究のとりまとめに重点をおいて研究を実施していく。これまでのデータ収集は日本の観光会社や日本人観光客、かれらへの現地社会の対応が中心であったが、観光の現場における多民族状況に留意しつつ、欧米からの訪問者の観光行動、近年増加した中国からの観光客の観光行動、それらに対する現地社会の対応などにも留意し、多面的に情報を収集して補っていく。 また、前年度に参加した国際学会に際して意見交換を行った国内外の研究者とともに、英文誌の特集号への投稿を検討するほか、文化人類学・民俗学のみならず宗教学や歴史学などの隣接諸分野の研究者とも意見交換を行い、収集してきたデータを広い視座から分析する。とりまとめた研究成果は現地の関係諸機関に効果的に還元し、戦跡観光の課題の検討や今後の発展のための基礎資料として役立ててもらうようにする。
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