研究課題/領域番号 |
15K03064
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
橘 健一 立命館大学, 産業社会学部, 非常勤講師 (30401425)
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研究分担者 |
渡辺 和之 立命館大学, 経営学部, 非常勤講師 (40469185)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 恥 / 存在論的人類学 / フィールドワーク / 大震災 / ボランティア / 社会的絆 / 排他的共同性 |
研究実績の概要 |
平成27年度、研究代表者、研究分担者、連携研究者の全員で研究課題上の問題意識の共有化を改めて進め、「恥」に関連する文献のデータベース共有も進めた。また、27年度は、動物・人間の境界を問い直す存在論的人類学関係の翻訳が多数出版されたので、そうした研究をまとめつつ、それらの議論と「恥」との関わりについて討論をおこなった。 研究代表者の橘は、ネパールのチェパン社会で「恥」、特に動物・人間関係、民族間関係、親族関係に注目したフィールドワークをおこなう予定だったが、5月にネパール中部で大震災が発生したため、その地震への対応を中心に「恥」の問題を調査することにした。そのなかで、カトマンズの富裕層のなかで、海外に住む若い世代の働きかけもあって、ボランティア活動(食料、支援物資の供給)をしないことが「恥」とされ、その「恥」の記憶が社会的絆の可能性を広げていることが確認できた。さらに「恥」を乗り越えるためにボランティアの排他的共同性が形成され、他者を招き入れる際には、また「恥」の記憶の場に戻る、という往復運動が生じることも確認できた。ボランティアを受け入れた被災者側では、そうした物資よりも仮設住宅を求めており、ニーズとの乖離の問題も目についた。そうした乖離に関わる「恥」の問題は、今回の調査では見いだせなかった。 研究分担者、連携研究者も、それぞれ被災者へインタビューなどをおこなったが、やはり援助をしない存在が非難され、その「恥」を忌避するためにボランティアや支援の場が広がっていることが確認できた。また、その際、支援する/しない存在という境界が、民族・カースト的な枠組みと重ねられる状況も生じていることがわかった。ここでも排他的共同性の問題が確認できたが、「恥」の場から立ち上がる社会的絆の追求は、今後の課題となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は、研究代表者は動物・人間関係、親族関係に関わる「恥」の問題を追求、研究分担者は家畜と人間、移牧民と農民に関わる「恥」についてのフィールドワークを実施し、連携研究者は、インドのチベット難民と本土のチベット人の「恥」の感覚の差異などの調査を目指していた。しなしながら、ネパール大震災の影響で、それらが難しくなったため、急遽、地震と「恥」の関係に、焦点を移して調査を実施した。 当初より、民族に関わらない「恥」の問題も追及する予定だったので、全体としての方針からは外れていないが、民族に関わる部分の「恥」の調査に若干遅れが出てしまった。文献調査は順調に進んでいるので、研究の全体的な進捗の遅れは僅かである。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、地震の復興に関わる恥の問題の追求を平成27年度の成果を踏まえて続け、さらに、当初計画していた動物・人間関係、民族間関係、親族関係、家畜と人間、移牧民と農民に関わる恥、インドのチベット難民と本土のチベット人の恥の感覚の差異に注目したフィールドワークも実施できるよう努力したい。また、文献調査も進め、学会、論文等で成果の発表も、随時進める予定である。 なお、連携研究者のチベット難民の恥の研究が、本研究に対する大きな貢献を果たすことが確認できたので、分担研究者に変更を申請、すでに承認を受けた。今後、研究代表者とこれまで以上に密に意見交換し、研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、ネパール大震災が発生した影響で、研究代表者ならびに連携研究者が当初予定していた期間のフィールドワークができなかったため、次年度使用額が発生した。連携研究者は、フィールドワークを実施したものの、次年度以降に充実した調査を実施したいという意向だったため、次年度に調査費を確保することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、連携研究者を研究分担者として新たに登録、次年度使用額を使用して調査を実施することになる。研究代表者も、フィールドワークをより充実させ、主に旅費として使用する予定である。
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