研究課題/領域番号 |
15K03065
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研究機関 | 京都精華大学 |
研究代表者 |
浅野 久枝 京都精華大学, 人文学部, 特別研究員 (20700008)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 無縁仏と先祖 / 無縁 / 祖先崇拝 / 年忌明けの仏の処遇 |
研究実績の概要 |
平成29年度において、福島県立図書館、岩手県立図書館、愛媛県立図書館、青森県立図書館において、年忌明けの仏が無縁仏になる、という事例を各県自治体誌から収集した。その結果、福島では新たに5カ所、岩手では3カ所、その他青森では南部地方に4カ所の事例を発見した。本研究を開始する以前は宮城県の事例のみ把握していたが、研究を進めるうち、青森、岩手、宮城、福島と、東北地方には広域に分布することが明らかとなってきた。また、西南日本では大分県と岡山県に分布していることが平成28年度までの調査で明らかになっている。また、つい先頃、三重県にも一例の記述のある文献を発見した。さらには、文献資料ではなく、実地聞き取り調査において、福井県小浜市、東京都立川市でも「年忌明ければ無縁になる」との事例を得た。この様に「無縁」「無縁仏」の語は、現在一元化したように見える「縁がない」「関係ない」の意味だけではない、多様な意味が広く存在することが明らかになりつつある。一方、岩手県の隣接県である山形県、大分県の隣接県である宮崎県、愛媛県、あるいは長崎県では該当する事例は発見できなかった。とくに愛媛県では「年忌明け」の概念が薄く、年忌明けで無縁仏になる事例は、文献資料でも実地調査でも発見できなかった。しかし、愛媛県では盆の前後に「組念仏」という行事を行う事例が多く、これは大分県の共同体で行う先祖供養としての「無縁供養」に類似する。先祖と無縁を考えるうえで、あらたな視点を獲得する手がかりを得た。「無縁」「無縁仏」の語が持つ意味の多様性を追求するため、未調査地区の文献調査を進めつつ、年忌明けをして「先祖」になるべき霊をなぜ「無縁」と呼ぶのか、という大変大きなテーマを追及すべきであるとの方向性が見えてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究開始時には、年忌明けの仏を無縁仏と呼ぶ地域は限定的であると予想していた。しかし、調査研究を進めるとかなりの広範囲であることがわかってきた。そのため、可能であればすべての都道府県での調査をすべきであると考えている。がしかし、個人での調査では難しく、また、日数も必要である。限られた最終年度の時間で、該当事例のある県に隣接する秋田県、北関東、広島県、福岡県、あるいは一例の事例が新たに発見できた三重県などから、一カ所程度の調査を進める予定だが、未調査地区の数が多く、継続しての研究の必要性を痛感している。 これまでの民俗学の定説では年忌明けした仏は個性を失い、「先祖」という大きな霊魂の集団に融合し、その先祖が生きている子孫を見守り、盆には「先祖」が帰ってくるものとされている。しかし今回の研究で明らかになってきたのは、「先祖」になるべき霊を「無縁仏」「無縁」とする事例が広範囲にあることである。年忌明け仏を無縁と呼ぶ地域(宮城県)では、盆には年忌明け前の仏の数だけ供え物をする、という事例も出てきた。これらの事例から、はたして「先祖」は個性を失った霊なのだろうか?民俗学の定説を覆すかもしれない問題が現れてきており、これも、個人の研究では手に余る可能性が出てきた。 近年の一元化した使われ方をしている「無縁仏」「無縁」に対し、民俗社会に残る「無縁」の後が持つ多様な意味世界を広く知らしめ、「先祖」とも近い存在かもしれない「無縁仏」についての研究を、時間を掛けて追求すべきであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
年忌明けの仏を無縁仏と呼ぶ地域が限定的ではないことが明らかになっている現在、未調査地域の調査を続けていかなくてはならないが、時間的制約と研究費の制約から、今年度は1カ所ないし2カ所の調査を実施したい。さらに、これまで調査を行った、青森県、岩手県、宮城県、山形県、福島県、愛知県、島根県、岡山県、愛媛県、長崎県、大分県、宮崎県のデータの整理も行い、分布図などの作成を行う。 また、「先祖」と「無縁仏」の関係を考えるためには、「先祖とは何か」についての先行研究を整理しなくてはならない。また、年忌明けの仏を無縁仏と呼ぶことについて触れている先行研究者も数名居る。「先祖」と「無縁」の関係にかかわる研究史の整理を行うことにも力を入れたい。 また、「先祖」=「無縁仏」ともいうべきペルー日系人の先祖供養実態のデータを整理し、まとめる作業も並行して行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実母が大腿骨を骨折し、介護に時間を取られ、調査研究を遂行する時間が不足した。今後は、地方自治体誌の調査のため、県立図書館一カ所程度の調査と、それらのデータをデータベース化するために助成金を使用し、また、ここまでの研究成果をまとめた報告書を出版する費用として使用する計画である。
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