最終年度には、オットー・マイアーの法人理論を当時の諸法人の実態にも配慮しながら分析し、その全体像を明らかにするとともに、1880年代の連邦国家理論をイェリネック、リーベ、ツォルンらを中心に検討した。研究期間全体の成果としては、連邦国家理論と法人理論のそれぞれについての認識をほぼ獲得できて、両者を関連づけて多元的国家秩序の動態把握のための枠組を構築する準備が整ったと言える。 本研究は何よりも、マイアーの法人理論について従来あまり知られていなかったその全体構造と、その多元的国家秩序把握にも生かされ得る理論的射程とを析出した。マイアーは国家は法人ではないと主張したが、その真意は殆ど理解されないまま異端説と位置づけられてきた。そうした評価は、マイアー説がもっぱら通説的な国家法人説との偏差という観点から読まれてきたことにおそらく起因する。 マイアーは実は、法人制度の技術的効果としての財産分別が果たす機能を、公法人・私法人、財団・社団などを横断して検討した。商事会社等の社団法人では周知の通り、財産分別が会社債権者にとっての引き当てとなる会社財産が社員や社員の債権者によって取り崩されないための保障である。公的慈善アンシュタルトや公的年金機構では、寄進者や掛け金払い込み者たちという法人の部外者が財産分別の恩恵を受ける。それに対して財団法人や水利団体、職業団体などでは、寄付者あるいは団体構成員の出資金が目的外に使われないことを財産分別が保障している。しかし国家にはそのような分別という技術的効果の働く余地はないのである。 注目すべきは、法人における財産分別という主として外部効果をもつ技術的機能が、団体類型ごとに異なった内部構造を基礎づけていることである。法人理論はこのように団体の外部関係と内部構造とを架橋する。この知見を利用しつつ、多元的国家秩序の把握のための枠組みを構築することが将来の課題となる。
|