研究課題/領域番号 |
15K03076
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
櫻井 利夫 金沢大学, 人間社会研究域, 客員研究員 (80170645)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中世ドイツ / 城塞支配権 / シャテルニー / ファルケンシュタイン伯 / 4つの城塞 / 罰令権 / 裁判権 / 封建社会 |
研究実績の概要 |
中世盛期ドイツの城塞支配権の内部構造を究明しつつ、この支配権はフランス史に言うシャテルニーと同質的なものであること、また歴史の機動力となったことを究明する課題を設定した。具体的な研究対象として、バイエルン南東部の貴族ファルケンシュタイン伯を取り上げ、設定した課題を原典史料に基づいて追究することができた。その成果は貴振興会の研究成果公開促進費の交付を受けて、拙著『ドイツ封建社会の城塞支配権』(信山社、平成29年9月)として公表された。その研究成果は以下の通りである。 この家系はノイブルク、ファルケンシュタイン、ハルトマンスベルク、ヘルンシュタインの4つの城塞を所有し、それらの周囲に自由財産とレーエン財産を保持し、これらが伯の支配権の財産的基礎をなした。これらの財産=所領に対して伯は荘園支配権を行使した。伯の主君はバイエルン大公等20名、レーエン財産の面積は合計で2,600マンススであった。伯は家臣として通常の封臣を27名、城塞守備を専属的義務とする城臣を4つの城塞について合計で30~45名抱え、この家臣達が伯の軍事力の基礎を構成した。伯は4つの城塞の流血裁判権と高級贖罪裁判権の二元主義的な性格を帯びる高級裁判権=ラント裁判権を行使した。この城塞支配権はフランス史に言うシャテルニーと同質的なものとして把握できることが解明された。ドイツの城塞支配権の内部構造の究明という研究成果は日本とドイツで初めてのものである。次に、機動力の問題に関し、城塞は支配の中心をそれまでの荘園制の領主館からシャテルニー制=城塞支配制の城塞へと転換させたために、歴史の機動力として把握される。さらに城塞支配権(圏=区)から領邦君主の地方行政組織=アムト制への発展という事象も確認された。これは従来日本で必ずしも認識されてこなかった点である。以上の研究成果は従来未解明な問題の解明に寄与するものと評価されよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、中世盛期ドイツの城塞支配権の内部構造を究明しつつ、この支配権はフランス史に言うシャテルニーと同質的なものであること、また歴史の機動力となったことを究明する課題を設定したが、この課題はバイエルン南東部の貴族ファルケンシュタイン伯が作成し、1200年までの中世盛期の俗人貴族のものとしては唯一現在まで伝承された所領台帳という原典史料に基づいて、ほぼ達成されたといえる。またその成果は貴振興会の研究成果公開促進費の交付を受けて、拙著『ドイツ封建社会の城塞支配権』(信山社出版、平成29年9月)として公表された。なお本書は、このファルケンシュタイン伯の城塞支配権に関する研究成果、及びその他2篇の既発表論文に修正を加えたものを一書に纏めたものである。
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今後の研究の推進方策 |
研究を一層深め進展させるために、差し当たり次の2点を課題として追究したい。 (1)上記の貴族ファルケンシュタイン伯は4つの城塞を各々専属的に守備する城臣を抱えていたことが明らかとなったが、城臣の名前が判明しているのは、ノイブルクとファルケンシュタインの2つの城塞の城臣についてだけである。そこで、この2つの城塞の城臣が主君のファルケンシュタイン伯から授封されたレーエン財産=封の位置(城塞からの距離等)と性格を明らかにし、これによって同時に城塞守備レーエン制の歴史的意義を究明することにしたい。城塞守備レーエン制の研究はドイツでも手薄であるだけでなく、日本では管見の範囲では、申請者の先駆的研究を除けば皆無と言わざるをえない。研究が要請される課題といえよう。 (2)ファルケンシュタイン伯は上記の城塞の周囲に位置する他の貴族の所領=支配権を買収や質入れの手段で自己のものとし、自己の支配権の危険要因として除去しようと務めたことが分かっている。この課題をもう少し深く究明したいと考えている。この点の究明は日本ではほとんどなされていないといえる。
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次年度使用額が生じた理由 |
著書の執筆に時間を振り向けたために、当初予定した通り出張をすることができなくなったこと及び物品の価格が当初の予想下回ったことが理由。 物品費を図書の購入に、また旅費を文献の調査収集に十分に充当することを計画している。
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備考 |
金沢大学地域連携推進センターホームページ 公開{e}講座
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