研究課題/領域番号 |
15K03081
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
渋谷 謙次郎 神戸大学, 法学研究科, 教授 (50346277)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ロシア / ソ連 / 自決権 / 民族自決 / 連邦制 / クリミア |
研究実績の概要 |
本研究の全体構想である、クリミア等の近隣の旧ソ連諸国内で生じている分離・独立問題に関与する際、いかなる国内法的・国際法的な根拠をとっているのかについての総合的に分析に関して、まず研究実施計画のうち、本年度は、計画の中間段階にあたる、ロシアがそれらの係争地に影響力を行使して独立国家として承認したり、クリミアのようにロシアへの編入を正当化したりする際の国内法的および国際法的な論拠の解明に比重を置いた分析を関連資料の収集を通じて行った。 その結果、ロシアは、単にソ連自体由来の民族自決権の発想の延長上で、それらの係争地に影響力を行使しているのみならず、クリミア編入時のロシア側のスタンスおよび説明にみられたように、国際法で認められた人民の自決権や民族的少数者の人権などを根拠に、主として旧ソ連各地に散らばるロシア語系住民の庇護者的な役割を果たしており、またそのために、かねてから旧ソ連地域のロシア語系住民の支援に関するロシア国内法の整備を行ったり、ロシア議会が度重なる決議などをしていることがわかった。 これらを通して、ロシア現体制(プーチン体制)の大きな変化がない限り、今後も旧ソ連諸国に対するロシア流の「人権外交」、「自決権外交」が繰り広げられることが予想できる。ただし、その際にもロシアは国内的にはチェチェンの自決権を武力で封じ込めてきたなど、自決権に関しては対外的、対内的にダブルスタンダードがみられることを考慮に入れる必要もある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画のうち、ロシアが旧ソ連諸国(とりわけウクライナ、モルドヴァ、グルジアなど)の係争地に影響力を行使して、分離独立を掲げている地域を独立国家として承認したり、クリミアのようにロシアへの編入を正当化したりする際の国内法的および国際法的な論拠の解明に比重を置いた分析については、本年度を行った資料収集等ともとに、研究会で成果を報告をした。その成果を現在、論文集の原稿執筆において反映させており、また研究計画の第三段階にあたる、係争諸地域の「自決権」が地域的・経済的「自立」というよりも、ロシアのような大国の支配と影響力拡大に結びついていくメカニズムの解明に関する予備的な原稿を別途作成しているため、本研究課題の進捗状況について、おおむね順調に進展していると思案し得る。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、さらなる資料収集とその分析を通じて、2014年3月のロシアによるクリミア編入が、着々と準備されていたものではないにせよ、少なくとも、クリミアにおける住民投票→独立→ロシア連邦への加入という「手続」が、制度や法的言説としては周到に準備されていたものであることを検証する。 またクリミア編入をめぐる国際法に対するっロシアのアプローチをみることで、ロシアの国家戦略における法的言説の特徴を明らかにする。とりわけ2008年のコソボ独立に対するロシアの姿勢(独立に反対)と、同年、ロシアとグルジアとの間に生じた武力衝突をきっかけとして、南オセチアとアプハジア(いずれもグルジア領)をロシアが「国家承認」するにいたる背景、とりわけ、そこで役割を果たした「自決権」に対するロシアのアプローチを分析する。コソボ独立をめぐるロシア側の立場に関してはロシア大統領府およびロシア外務省の資料、ロシア全国紙、また南オセチアとアプハジアの「独立」承認については、ロシア大統領府およびロシア全国紙のほか、いずれのケースでも国際関係および法学雑誌(「国家と法」等)における議論を検討する。またコソボ問題については国際司法裁判所の資料をも用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
書籍(ロシア語図書)の購入を予定していたが、発注から入荷までに数か月を要するため、2016年度ではなく、2017年度分として購入することとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の通り、発注から入荷まで期間を要する(当初予定していた)ロシア語図書の購入にあてる。
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