最終年度には、主として2014年のロシアによるクリミア編入に際しての、国際法的論拠および国内法的な手続きに関する分析を行った。すなわち、クリミア編入は、当地の多数派を占めるロシア語系住民のウクライナからの独立とロシアへの再統合を希求する、国際法で認められた「人民の自決権」の正当な行使であり、その際、クリミアの州民投票を実施して圧倒的多数がロシアとの再統合を望んだという論拠である。またロシア国内法の手続きとしては、クリミアが共和国の資格でロシア連邦に加入するための、新連邦構成主体加入の手続法に乗っ取ったというものである。 総じて、ソ連解体後のロシアは、周辺の旧ソ連諸国に集住するロシア語系住民の庇護および保護を「同胞支援」の名のもとで、国策の次元にまで高めてきた。とりわけソ連解体後、ウクライナ領であったクリミア州はロシア語系住民が多く居住し、1954年以前は当地がロシア領であったという事実を追い風に、当地の住民がロシアとの再統合を望んでいるという「自決権」の言説をもとに2014年にロシアへの編入に乗り出した。西側諸国からは「国際法違反」が指摘されるクリミア併合について、ロシア国内の言説は正反対で、むしろ国際法と民主的手続きに乗っ取ったものという認識のギャップが深刻であることに注意を向ける必要がある。このようにして、ロシアは、周辺の旧ソ連諸国に対する一定の影響力を維持する際、国家戦略の一部として「自決権」外交とも呼ぶべきものを採用し、今後も、同様な手段を取り続けるものと予想できる。
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