研究課題/領域番号 |
15K03082
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
大森 秀臣 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (10362948)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 共和政 / レトリック |
研究実績の概要 |
本年度、前半期に時間を割いたのは、古代ローマの哲学者キケローの「レトリックと共和政との関係」観に関する検討と論文執筆である。昨年度に進めてきた文献、とくに邦訳の『キケロー選集』や英訳のLoeb Classic シリーズなどを手掛かりにしたキケローの一次文献の講読・検討作業、そしてキケローに関する国内外の文献、とりわけGary Remer, Humanism and the Rhetoric of Toleration (Pennsylvania State University Press 1996)など近年のレトリックや共和主義に関する洋書の講読・検討作業をもとに、本年度はそれをキケローの「レトリックと共和政との関係」観を特定するという観点から整理・統合し、下記の通り論文として公表した。
後半期に注力してきたのは、英訳のLoeb Classic シリーズなどを手掛かりにした古代ローマの歴史家サッルスティウスとリウィウスの一次文献、および彼らの歴史叙述に関して書かれた国内外の文献である。とりわけDaniel J. Kapust, Republicanism: Rhetoric and Roman Political Thought Sallust Livy and Tacitus (Cambridge University Press 2011)やJoy Connolly, The State of Speech: Rhetoric and Political Thought in Ancient Rome (Princeton University Press, 2007)などを講読することを通して、彼らの「レトリックと共和政との関係」観に焦点を当てながら検討をしていった。彼らが記した書物は、ローマ史に関するものではあるが、重要な事件に現れる史実を模範とされるべき実例として挙げており、とくに著名なローマの政治家・雄弁家たちの演説は、彼らのレトリック観を知る上で重要な手がかりであり、上記の二次文献から多くの示唆を受けながら、本年度はいくつかのポイントを捉えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、キケロー、サッルスティウス、リウィウス、タキトゥスにまで検討対象としているが、本年度は本稿を貫く基本軸を同定するために、キケローの「レトリックと共和政との関係」観を明らかにする論考を公表するところまではいった。この作業は、他の歴史家たちの理解と比較するための軸となるものであり、今後の作業には不可欠の部分である。依然としてラテン語の文献を講読するのはハードルが高く、なおかつ一次文献のみならず、関連する二次文献まで含めれば膨大となるが、とは言え講読の作業だけではとても公表するところに至らないので、ここでいったん目途をつけて公表に踏み切った次第である。 本年度の後半期にサッルスティウスとリウィウスの文献の講読・検討に入ったが、これも分量的に大変なもので、サッルスティウスについては『カティリーナ戦記』『ユグルタ戦記』を中心にすればよいが、リウィウスの『ローマ建国史』については、一次文献だけで大量にあるので、検討の端緒についたばかりである。その意味で十分に予定通り研究が進んでいるとまでは言えないが、とは言え元来困難が予想された本研究の予定をここまで進められたのはおおむね順調であると言ってよいと思う。
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今後の研究の推進方策 |
ラテン語文献の読解に時間がかかる事情に変わりはないが、やはり一次文献を読み解く作業は、邦訳・英訳の手助けを用いながらも、丁寧に作業を進めていかなければならない。本年度に引き続き、サッルスティウスとリウィウスの文献の講読・検討を行い、彼らの「レトリックと共和政との関係」観を明らかにする手掛かりとなる二次的な文献の講読・検討をも進めていく。その際、リウィウスの『ローマ建国史』の分量が最大の障害になる。邦訳の刊行が遅れていることもあるが、Loeb Classicシリーズでは、ようやく最近になって出版されたものもあり、それらを手掛かりに作業を進めていきたい。 6月には関連する文献(とくにラテン語、イタリア語の文献)に当たるために、在外調査に出る予定もある。また、とりあえずリウィウスの著作の最初の10巻までを対象にして、サッルスティウスの分をも含め、彼らの「レトリックと共和政との関係」観を論じた論文を岡山大学法学会雑誌に掲載するつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
外在的な要因として、本年度から実施された本学の60分・クォーター制に移行されたことに伴う授業負担の増加、とりわけ教養教育科目を担当したこともあって、予定していた国外への資料収集などのための十分な時間がなくなり、予定額よりも執行することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、これまで実施できなかった国外への資料収集に出向くことにしたい。また引き続き、古代ローマ時代の歴史家・哲学者の諸著作を、複数の言語による訳書を含めて購入し、また近年の国内外のレトリック研究や共和主義研究の著作を入手したい。さらに専門の研究者による検証協力などを得るために、国内外の研究機関に渡航することなども、限度額が許す限りで試みてみたい。
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