本研究は、「分配(正義論)」―「陶冶(人材育成論)」―「処遇(権利論)」という三つの規範の相互関係の検討から、子育て・教育に関わる基礎理論としての社会的規範理論を構築していくことを目的とする。平成27年度は、「子育て・教育の社会的規範理論とは何か」に関して、関係する理論・政策に含まれる明示的あるいは黙示的な理念を整理していった。本研究における柱的な論点・問題枠組みの相補性を強く意識しつつ、導入的論文である「子どもをめぐる規範理論」を執筆した。本論文ではなぜ子どもの規範理論なのかという問題設定から、分枝的論点を検討していった。 さらに、「陶冶論(人材育成論)」に関しては、まず「何に向けての陶冶なのか」についての類型化を進めるための基礎作業を行い、論文として「市民性教育とリベラルデモクラシー」を執筆し、いわゆるシチズンシップに関する教育理論が陶冶理論としてどのような位置づけとなるかについて明らかにした。 さらに、「分配論(正義論)としての規範理念」に関する予備的考察を行った。具体的には、子育てや教育に関わる基本的な財やサービスの正当な分配のありようの検討という視点に絞って、ロールズの基本財理論やドゥオーキンの平等論などの整理も行った。さらに、子どもの貧困研究や学歴―社会階層研究において検証されつつある、子育て・教育に向けられた費用とその効果についての議論を本研究に関連する範囲で整理した。
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