本研究は、「分配(正義論)」―「陶冶(人材育成論)」―「処遇(権利論)」という三つの規範の相互関係の検討から、子育て・教育に関わる基礎理論としての社会的規範理論を構築していくことを目的とする。正義論、平等論や権利論など、法哲学を中心とした基礎法学における研究手法ならびに先行業績を中心的に利用しつつ、社会学、教育学や心理学など、広く他領域の研究成果をも咀嚼し、学際的な理論構築を目指す。 平成28年度は、上記の三規範の中で、分配論(正義論)としての規範理念であるところの社会的な財・サービスを子どもに分配していく原理を正義論の観点から決定する場合の特質を特に検討した。将来世代に対する分配や、教育費用の公的負担が後に納税額として社会的に十分に回収される可能性(受益者負担問題)などの論点をもあわせて予備的に検討した。 平成28年度は11月に日本法哲学会学術大会(統一テーマ「ケアの法 ケアからの法」)において、「子どもとケア」について報告を行った。分配的正義論が正義論一般の中でどのような位置を占めるのかに留意しつつ、子どもとケアの問題を法哲学的に検討した。その中で、権利との関連性をどのように検討しうるかという論点を、親の子育ての自由や社会的資源の希少性などの観点から探求した。さらに、教育や子育てに関する機会均等論(教育子育ての平等論)が本研究の三項関係の中でどのように捉えられるのかについても整理した。
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