研究課題/領域番号 |
15K03087
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研究機関 | 高崎経済大学 |
研究代表者 |
大河原 眞美 高崎経済大学, 地域政策学部, 教授 (40233051)
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研究分担者 |
西口 元 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (60708759)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 民事重要法律用語 / 市民の理解度調査 / 解説集 |
研究実績の概要 |
本研究は、市民に分かりやすい民事関連の重要な法律用語の解説集を作成することにある。平成27年度は、①これまでの研究成果と実務経験に基づいて民事関連の重要法律用語を抽出し、②選出された重要法律用語について市民を対象とした認知面接調査を行い、③それらの法律用語についての市民の理解度の有無までを分析した。 ①これまでの研究成果の整理として、法律用語についての法律用語辞典と国語辞典の記載の比較を行った。平成24年度の科研の挑戦的萌芽研究「市民に分かりやすい民事関連法律用語の言換えに関する研究」で抽出した98語について、『有斐閣 法律用語辞典』と『明鏡 国語辞典』の説明を比較し、他文献からの語源についての説明を加えた成果を、前編と後編に分けて、「市民の理解度を踏まえた法律用語の解説に関する研究―辞書記載比較―」 という論題で、『地域政策研究』第18巻第2・3合併号と同誌同巻4号に搭載した。 口頭発表については、アダム・ミツキエヴィッチ大学法言語学研究所開設10周年記念大会で「Simplifying Japanese Civil Law Terminology」という論題でこれまでの研究成果をまとめた報告を行った(2015年6月26日)。また、早稲田大学で開催されたThe 4th East Asian Law & Society Conferenceでは、「Two Approaches to Simplifying Japanese Civil Law Terminology」という論題で言語学分析だけでなく民法の法理を踏まえた研究の重要性を報告した(2015年8月5日)。 ②の法律用語の選出については、2015年9月に16語を確定し、10月以降は認知面接調査を行い当初の40名より66名から調査結果を得、現在、③の分析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
重要法律用語の選出し、それらについての市民を対象とした認知面接調査を行い、市民の理解度の有無までを分析した。 重要法律用語について100語抽出し、その中から解説集で取り上げる用語の重要性と民法の法理の流れを踏まえて16語に絞り込んだ。この16語の内訳は、「法律用語」「法律要件」「法律効果」「権利能力」「意思能力」「行為能力」「不動産」「動産」「債権」「意思表示」「法律行為」「不法行為」「債務不履行」「無効」「取消し」「撤回」である。 これらの16語について、既知感質問と自由回答で66名の市民を対象に、ICレコーダーに録音して調査を行った。既知感質問は、①この用語を聞いたことがあるか否かについて2件法で回答を求め、②聞いたことがある用語についてどのくらい知っているかについて、「よく知っている」「やや知っている」「どちらとも言えない」「あまりよく知らない」「全く知らない」の5件法で回答を求めた。自由回答では、聞いたことがある用語について、どのような意味の用語だと思うかについて回答者に自由に発話してもらった。現在は、録音データーを反訳してパソコンに入力中の段階である。 既知感の回答率が高かった用語は「不動産」「債権」「無効」「取消し」「撤回」「意思表示」「不法行為」で、既知感が低い用語は「法律事実」「法律効果」「権利能力」「意思能力」「行為能力」である。既知感のある用語ではあるが。「無効」「取消し」「撤回」の違いの認識はなく、「意思表示」も法律用語とはかけ離れた理解の傾向が見られることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、面接調査の録音データーのパソコン入力を終え、自由記述を計量分析で利用されるKHコーダーを用いて、発話内容を単語(形態素)に分解してその頻度を数える。多変量解析のクラスター分析や共起ネットワークを用いて、一緒に出現することの多い語のグループを特定して、市民がどの用語についてどのような用語を使って発話しているのか把握する。これらの結果を踏まえて、平成29年度は、重要法律用語16語の解説作業を行う。 平成28年度の成果発表は、市民の面接調査の分析結果を、2つの学会で報告することを予定している。まず、9月22日~23日にシンガポールで開催されるAsian Law and Society Associationの年次大会、11月3日~5日にウェリントン(ニュージーランド)で開催される言語の平易化の国際学会Clarityの大会で、その時点で明らかになった成果を報告して、意見交換を行う。また、和文と英文での学会誌等の投稿も予定している。 平成29年度の成果発表は、国際学会や国内学会での報告に加えて、シンポジウムを開催する。同年12月に開催予定の法と言語学会の年次大会で「市民に分かりやすい民事重要法律用語解説のあり方」(仮題)のシンポジウムを設けて、言語学者、法実務家、法律雑誌編集者、英語圏の日本語翻訳の実績のある弁護士等に登壇頂いて、本研究の成果の公表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年は、面接調査の実施に多くの時間を割いたため、図書費の購入が当初予定より少なくなった。また、代表者と分担者による国際学会報告(ポーランドのアダム・ミキヴィッチ大学)の経費2名分で予定していたが、分担者の経費の方は、所属校の国際学会報告関連の助成金を得ることができそれを充当させたため、当該科研のからの支出が減った。そして、謝金については、面接調査に研究者が積極的に行う方がより的確に調査結果を把握できるので、平成27年度の後半は科研研究にあてる時間を努めて増やした。研究者が直接に作業を行うことが増えたため、研究補助の経費が減った。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、学会報告に加えて、和文と英文での論文執筆を予定している。このため、論文執筆の図書費として昨年度からの「物品費」の助成金を充当する。「旅費」については、国内は当初の予定通り法社会学会(立命館大学)と法と言語学会(金城学院大学)と早稲田大学における打合せの経費である。国外については、昨年度からの助成金を充当して、報告が確定したアジア法社会学会(シンガポール)と言語の平易化国際学会(ニュージーランド)に参加する。「謝金」については、英文の論文の校閲等の経費に昨年度からの助成金をあてる。「その他」は、反訳の経費が主であるが、外部委託より研究者が行った方が研究の進行上よいと思われるので、時間の調整がつく限り研究者自身で反訳をしたい。このため、「その他」の経費は平成28年度の当初予定から減ることが予想され、当初予定より増加する国外旅費に充当することになる。
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