本研究の目的は、中世の土地境界紛争における実検使(堺相論実検使)の実態及び機能の解明、ならびに実検使の視点を通じた土地境界紛争解決における紛争観念の考察である。 前近代における土地境界紛争では、裁判権力から派遣され現地調査をする実検使が登場する。とくに中世の実検使は、単なる現地調査だけではなく紛争そのものの解決に繋がる調整機能を有していたと考えられている。しかし、実検使の観点からの史料検討や、個別事例の横断的な研究はほとんどなされていない。本研究では、実検使の考察を通じて当該期の土地境界紛争に関する法観念を明らかにすることを主たる目的とし、副次的目的として現在的な課題である土地境界ADR、現行裁判での経界確定訴訟および筆界特定制度へのフィードバックを目指している。 本研究では、意識的に研究スケジュールを3フェーズに分け、順次段階的に取り組んでいくとともに、上位フェーズで得られた成果を下位のフェーズに還元することによって、各位相を補完していく手法をとっている。その際、各年度を前期と後期に分け、それぞれの段階において研究の進展度を確認する。また、進度に応じ検討対象の精査を行う。 平成30年度前期は、平成29年度後期から継続して第Ⅱフェーズ「研究者・実務家との意見交換」に取り組んできた。隣接学問の研究者との意見交換だけでなく、実際の境界紛争地として景観が比較的残存している骨寺村荘園遺跡における現地調査及び堂荘園遺跡の所在地である一関市博物館の学芸員の方々と意見交換できたことは非常に有益であった。平成30年度後期は、継続して史資料の収集および研究者との意見交換を行いつつ、第Ⅲフェーズである「成果公表及び総合的検討」に取り組んだ。しかしながら、研究の大まかなまとめはできたものの、まだ公表するには至っていないので、次年度以降の公表に向けて取り組んでいきたい。
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