研究課題/領域番号 |
15K03098
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐々木 雅寿 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (90215731)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 対話理論 / 対話 / 継続的対話 / 対話的違憲審査 / カナダ憲法 / 日本国憲法 |
研究実績の概要 |
1 カナダ憲法の比較検討(州裁判所の機能と役割の解明) 平成27年度は、カナダの継続的対話における州裁判所の機能と役割を、判例・学説等の分析を通して明らかにする研究を行った。最新の判例として、カナダ最高裁が全員一致で、自己の死に明確な同意を示し、耐え難い永続的な苦痛を伴う悲痛で治療不能な状況にある、判断能力がある成人に対し、医師の手を借りた死を禁止する限りで、刑法の全面的な自殺幇助処罰規定は、人権憲章7条に違反し、1条で正当化できないため、無効であるが、無効判決の効力発生を12か月間停止すると判示したものがある(Carter v. Canada (Attorney General), 2015 SCC 5.)。この判断を導いた要因として、同様の判断を下した第一審判決(British Columbia Supreme Court, 2012 BCSC 886, 287 C.C.C. (3d) 1)、2011年にカナダ王立協会(The Royal Society of Canada)が、また、2012年にケベック州議会の尊厳死委員会が、一定の場合医師の手を借りた死を認めるべきとの報告書を作成したことが考えられる。 2 日本国憲法の検討(継続的対話の効果の分析) カナダ憲法の検討と並行して、日本における最高裁と国会との継続的対話の効果について、衆議院中選挙区制及び小選挙区制の下での投票価値の平等に関する事例等を中心に、判例・学説・国会審議を検討した。衆議院中選挙区制の下での投票価値の平等に関する事例では、最高裁と国会との継続的対話は、同じ幅の立法裁量を維持する効果を有していたが、小選挙区制の下での事例では、継続的対話は国会の立法裁量を漸次的に狭める効果を伴っていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 カナダ憲法の比較検討(州裁判所の機能と役割の解明) 当初の予定は、カナダの継続的対話における州裁判所の機能と役割を、判例・学説及び議会議事録の分析を通して明らかにすること、であった。実際、限定的ながら尊厳死を認めたと解しうるカナダ最高裁の判決(Carter v. Canada (Attorney General), 2015 SCC 5.)に、ブリティッシュ・コロンビア州の第一審裁判所の判決のみならず、カナダ王立協会やケベック州議会の尊厳死委員会が、一定の場合医師の手を借りた死を認めるべきとの報告書を作成したことが影響を与えたと考えられ、具体的な事案に基づく実証的研究が進んでいる。 2 日本国憲法の検討(継続的対話の効果の分析) 当初の予定は、最高裁と政治部門との継続的対話の効果について、衆議院中選挙区制及び小選挙区制の下での投票価値の平等に関する事例、参議院における投票価値の平等に関する事例や嫡出でない子の相続差別に関する事例等を中心に、判例・学説・国会審議を検討すること、であった。衆議院中選挙区制及び小選挙区制の下での投票価値の平等に関する事例と、参議院における投票価値の平等に関する事例に関しては、論文・判例評釈を公表した。また、嫡出でない子の相続差別に関する事例に関する研究も既に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策については、当初の研究計画に従って、研究を遂行することができると考えられる。 1 カナダ憲法の比較検討(国民の機能と役割の解明)とカナダでの本調査 平成28年度前半は、カナダの継続的対話における国民の機能と役割の解明を行う。後半には、カナダのトロント大学へ海外出張して、カナダ憲法の専門家に研究の中間まとめを報告し、研究のレビューとアドバイスを受ける。 2 日本国憲法の検討(下級裁判所の機能と役割の分析) 日本国憲法の下での継続的対話における下級裁判所の機能と役割について、関連する判例と最新の学説を分析する。具体的には、下級裁判所の違憲判断の理論がどのように最高裁の違憲判決に取り入れられたのかを中心に分析を進める。
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