本研究は、9・11テロ以後のアメリカ合衆国ニューヨーク市を対象とし、テロ・犯罪対策などが市民的自由に及ぼす影響について考察することを目的としていた。研究の遂行上特に重点を置いたのは、同市警察本部(NYPD)の犯罪取締政策の法的評価と社会的影響の分析である。NYPDの政策は「停止・身体捜検」(stop-and-frisk)の攻撃的な使用として知られる。それは、人種・エスニシティに基づく攻撃的な取締り、すなわちレイシャル・プロファイリング(Racial Profiling)の嫌疑をかけられている。実際、長年にわたり、アフリカ系市民等に対する極端に不釣り合いな割合で行われる取締りが問題視されてきた。 ニューヨーク市とNYPDのポリシング政策は、Floyd訴訟(Floyd v. City of New York)のニューヨーク南部地区連邦地方裁判所の判決(2013年)において違憲と断罪され、大きな波紋を呼んだ。NYPDの停止・身体捜検のようなポリシング戦術は、人種的偏見・差別を容易に隠蔽し得る。これを違憲のレイシャル・プロファイリングとして断罪したFloyd訴訟連邦地裁判決は、マイノリティ救済のための司法の役割の重要性を改めて浮き彫りにするものとして意義深い。 しかし、ニューヨーク市も含め、最近、各地で警察官によるマイノリティ市民への致命的な暴力行為が頻発している。警察と人種的マイノリティとの軋轢を増幅する警察活動のありようは、アメリカ社会の分断をより深刻なものとしてきたが、それは今も続いている。しかも、IS(イスラム国)などによるテロ事件が世界中で続発する中、ニューヨーク市を含めてアメリカでは、テロの未然予防を目的とする取締り・監視政策がアラブ系・南アジア系市民の市民的自由にダメージを与えている。さらなる研究の深化が求められている。
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