本研究は、韓国における「共和国」と「国民」概念の歴史的発展および今日の議論を軸に、西洋の「共和国」概念が東アジアの国家思想潮流の中でどのように位置づけられるものであるかについて検討することを目的とし、1、 韓国の「共和国」概念の分析および東アジア地域におけるその歴史的位置づけの解明、2、 韓国の近代国民国家形成途上における「国民」概念の分析および現代の移民政策下での「国民」概念変容についての分析、3、 西洋の「共和国」概念との比較における韓国の「共和国」概念の現代的意味の解明を主たる研究内容としてきた。 1については、東アジアでは歴史的に「共和」が西洋におけるRepublicとは異なり、「君」と「民」の共治を意味し、立憲君主制をも包含するものであったこと、それが「民国」概念の下で立憲民主主義、そして社会民主主義的特徴を有する体制を想定するものへと変化していったことを明らかにした。 2については、韓国では南北分断後も北側住民も含めた韓国民を想定し、韓民族を基盤とした血統主義的な国民概念を重視してきた。その一方で、現代では国籍法を改正して移民政策を転換し重国籍を容認するようになった結果、血統主義は修正されてもいる。また重国籍の容認にあたっては兵役逃れを防ぐための厳格な条件があり、国民の範囲と南北問題に起因する兵役問題の間に複雑な状況があることを指摘した。 3については、1,2を踏まえて韓国の民主主義の特徴を検討した。歴史的には民族的一体性が重視される一方で北朝鮮を警戒した安全保障政策や防御的民主主義の考え方が二律背反的な国家観・国民観を生んでいる。また現代的には憲法裁判所が韓国のこうした国家観について説示するという状況が生まれているが、その説示の中にも1,2で挙げた国家概念や国民概念の特徴が示されていることを提示した。
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