研究課題/領域番号 |
15K03109
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
安田 理恵 名古屋大学, 国際機構(法), 特任講師 (60742418)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 行政法 / 公共調達 / グローバル行政法 / ネットワーク行政法 / 市場経済移行国 / 政府出資株式会社 |
研究実績の概要 |
本研究は、公共調達契約について、これをグローバル行政法および多極的行政法のなかに定位するものとして新たな位置付けを与え、新しい行政法理論の構築をめざすものである。 研究の第二年度にあたる28年度は、第一に、日本国内の公共調達契約について、とくに、政府出資株式会社の「公共」調達契約を検討対象として、調査・分析を行った。公共調達契約の主体は、典型的には政府(省庁、地方公共団体)であるが、本研究は、存在形式としては私法人であり、しかし出資は政府が行っているという、政府出資株式会社を検討対象とすることで、行政法と民事法(特に会社法)とが交錯する領域における「公共」調達契約の法的コントロールを考察した。日本の政府出資株式会社は、かつての国営企業が民営化された結果、株式会社となったものである(日本道路公団→NEXCO中日本等)。政府出資株式会社による資材調達は、現在は私企業であるにもかかわらず、国・地方の公共調達の仕組みを参照しそれを自ら取り込んでおり、その結果、国・地方の公共調達と政府出資株式会社の資材調達は、そのルールおよび運用が共に接合していることが明らかとなった。 また、28年度は、第二に、諸外国における公共調達契約の調査・検討を行った。とくに、中国、ベトナム、ロシアがその対象である。研究初年度末には、中国およびベトナムのみを調査する計画であったが、研究をすすめるなかで、市場経済移行国であり、かつ、社会主義法の母国であるロシア研究の必要性を認識することとなった。グローバル行政法、多極的行政法を考察するとき、フランスで生成し、ドイツから日本へと継受された大陸法系の行政法、そして、イギリスとアメリカで生成した英米法系の行政法という二つの行政法だけでなく、ドイツからソビエトへ継受され、中国、ベトナム、モンゴル等へ継受されたソビエト(ロシア)行政法の意義は大きいことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
28年度は、当初の計画通り、諸外国(とくに、ベトナム、中国)を対象として、それらの国における公共調達契約の仕組み、国際取決めの国内実施、公共調達契約における不正・汚職の実態とその法的対応の調査・検討を行った。中国については、全国人民代表大会法制工作委員会が開催した共同ワークショップ(北京と京都にて二回開催した)において、報告と意見交換を行うことにより、上記の作業を行うことができた。ベトナムについては、ハノイ法科大学行政法教授らや国会議員とともに開催した共同ワークショップにおいて、議論および意見交換を行った。これらの成果の一部は、論文として公表した。 また、28年度は、(当初の計画にはなかったが)新たに、ロシア・モスクワ大学のビジネス法講座とのネットワークを構築することができた。その結果、ロシア・モスクワ大学での国際シンポジウムでの報告およびそれに伴う意見交換の機会を得た。その成果の一部は、論文として公表した。 上述のような、既に確立された人的ネットワークを通して、情報収集や意見交換を今後も継続的に行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
本科研研究課題の最終年度に当たるH29年度は、以下の課題に取り組む。第一に、行政契約のうち公共調達契約について、その契約主体の組織法上の差異が、契約手続および紛争解決にどのような差異をもたらすのか、そしてその意義を検討する。第二に、公共調達契約に関して生じる不正・汚職について、とくに不正・汚職対策が喫緊の課題とされている市場経済移行国を検討対象として、国内法がどのような法制度を用意しているのか、そしてこれら国内法制度に対して国際的取決めはどのように接合するのかを分析、検討する。 具体的には、以下の通りである。 ①ロシア:本年度も、モスクワ大学のビジネス法講座が主催する公共調達法の国際シンポジウムに出席し報告をする。その機会を活用し、引き続きロシアにおける特殊会社のなかに生成する行政法の検討を行う。 ②ASEAN諸国(とくにベトナム等)において、公共調達手続のなかに生まれる病理である不正・汚職問題の調査を行い、収集した事例から分析、検討に進む予定である。その際、とくに、公正さ、透明性、利害関係人からの距離、そして、物理的に病理を排除するアーキテクチャルな規制にも視野を広げて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
パソコンの購入を次年度に見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
パソコンを購入する。
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