2017年度は、(1)スウェーデンにおける現地調査を実施し、さらに(2)諸国の重国籍の認容状況と重国籍者の政治的権利及び「主権論」との関係に関する文献研究、(3)我が国の国籍法と重国籍をめぐる問題に関する研究を行った。 まず(1)については、ルショーピング市の移民庁(Migrationsverket)で副責任者を務めているインゲル・ランゲルストレーム氏、さらにストックホルム市内で移民・外国人問題の専門家であるエレナ・ディング=キルクルンド氏(Kyrklund's Consulting International CEO)及びリヌス・キルクルンド氏(民族差別オンブズマン法務官)へのインタビューを行った。移民庁では「欧州難民危機」後の情勢とともに、スウェーデンの新移民法について資料を基に解説していただき、キリクルンドご夫妻にはスウェーデンにおける移民の社会統合政策とその歴史、重国籍者の政治的権利等についての知見を教授していただいた。2017年3月にスウェーデン政府が「ロシアの脅威」を理由に徴兵制復活を発表するという情勢下のスウェーデンにおける移民政策と重国籍の問題については、南山法学42巻2号に論説を公表予定である。 (2)については、世界の重国籍の許容状況を調査した上で、重国籍者の選挙権、被選挙権、公職就任(特に国会議員)のそれぞれについて、諸外国の状況を考察した。例えば、諸国における重国籍者の投票権については、居住を基本とする制限の三類型が存在し、理論上「二重投票」が問題となるが、現実の諸国家においてはそれが制度上抑制されている状況を解明した。 (3)については、日本の国籍法を検討した上で「蓮舫問題」を検討した。重国籍者には生来的な重国籍取得と事後的なそれとがあるが、いずれにせよ、国籍を人権と解する立場からは、本人の意思を無視した重国籍喪失を行うことは違憲の疑いがある。
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