研究課題/領域番号 |
15K03121
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
松原 有里 明治大学, 商学部, 専任教授 (30436505)
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研究分担者 |
内海 朋子 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (10365041)
萬澤 陽子 専修大学, 法学部, 准教授 (50434204)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | GAAR 一般的租税回避否認規定 / 移転価格税制 / BAPS(税源侵食) / CC(C)TB指令案 / 欧州の租税争訟制度 / FACTA / ルックス・リークス / パナマ文書 |
研究実績の概要 |
研究開始2年目であり、今年度は昨年度から準備していた英国オックスフォード大学の租税法学者(企業税法および中小企業税制がご専門)であるジュディス・フリードマン教授を2016年5月に日本に招聘し、明治大学に於て一般公開の形で「GAARS-英国およびEUにおける一般的否認規定の法制化」について英語で講演を行っていただいた。その前の4月末にパナマ文書が公開され、国際的に悪質な租税回避(オフショアに「合法的に」金融資産を移すこと)が世間の注目を浴びたこともあり、当日は、租税法の専門家(研究者・弁護士・税理士)だけでなく、金融機関(外資系)の関係者や法学(特に刑法)政治経済学を専門とする学者・学生・院生らが参加し、講演後には、GAARを含むOECDの租税委員会が進めているBEPSプロジェクトの実効性について、英語で活発な意見交換が行われた(通訳付)。 合わせて、研究代表者の松原は、6月にミュンヘンで行われた欧州租税法学会に出席、基調講演を行ったフリードマン教授は壇上で日本の状況についても言及された。この結果、各国の出席者から日本の租税法についての質問や共同研究の申し込みを受ける機会を有し、最終年度、日本の現状について欧文で公表する下地を作った。また、松原は9月のドイツ租税法学会とスペインマドリッドで開催されたIFA(国際租税法学会)に出席し、合間に日本税理士連合会の外郭団体である日本税務研究センターでの金子宏研究会での研究テーマである「EUの租税争訟制度」について欧州各国の裁判官に現地インタビューを行うことに成功した。また、後者においては、次年度の国際会議(リオデジャネイロ)でのナショナルレポートを作成するため、その準備会合にも出席し、国際的タックス・プランニングに使われることの多い移転価格税制の改正の動向についてリサーチすることができた。英文レポートは、年度内に提出することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外からの国際化的租税回避に関する第一人者の招聘活動に加え、研究代表者の松原が海外の学会に積極的に出席することで、研究代表者の英文のレポート執筆と、次年度での国際会議でのパネル出席が可能になったため、国際交流が当初の予想より、はるかに広がったと考えられる。
また、本研究開始時には、全く予想していなかった「パナマ文書」が流出したことで、日本国内でも、租税法と他の学問領域との交錯(意見交換)が容易になったと考えられるため。脱税と節税の違いはプロにとっても難解だが、それをめぐる議論が、租税法関係者だけでなく、広く法律家や経済学者・経営学者にも広がったことは、非常に有意義であり、他分野の知見を吸収することは、今後の本研究の進展にもインパクトがあると考えられる。研究分担者の内海教授には、適宜、メールや直接会ってのやり取りを行うことで経済刑法の観点から貴重なアドバイスを受け、同時に、内海教授ご自身の研究にも反映することができた。また、今年度前期は産休・育休中であった萬澤助教授も、後期には復帰し、年度内に行われた最後の研究打ち合わせの場では、これまでの研究代表者の研究成果に対して、積極的にコメントをし、次年度に備えることができた。
最後に、本研究を進めるにあたり、職業裁判官や租税専門弁護士・税理士等の実務家との交流(意見交換や会議での同席)により、租税回避をめぐる「理論と実際」の感覚の相違にも改めて気づかされることが多く、本研究をさらに進める上で、彼らとの対話を今後も継続的に続けていくことが、必要であることを痛感している。その上でも、科研費を正規の手続きにのっとって使用する(Ex.個別インタビューに対し、謝金をお支払いする。活字になった際に、必ず謝辞を入れる)ことで、議論の偏在性を排除し、結論を導くことができたと考えている。又、金融犯罪についても次年度、研究分担者と共にさらに研究を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究最後の年にあたるため、総まとめとして、これまでの研究の成果を文書で公刊することに留意したい。具体的には、研究代表者が、2017年4月に開催された国際租税法に関するIFAアジア総会(インド・デリー)でGAAR(一般的租税回避否認規定)のわが国の状況について、最近の関連する租税判例をもとにパネル報告したため、それに関して日英双方の言語で公表したいと考えている。 さらに、欧州をメインにして、OECD租税委員会でのBEPSの議論をオンタイムで吸収するため、OCEDの租税委員会のメンバーとインタビューを行う他、移転価格税制と表裏の関係にあるCC(C)TBEU指令案の今後についても、引き続き検討課題としたい。 あわせて、我々が1,2年目の研究対象としていた英独両国だけでなく、トランプ大統領以降のアメリカ、マカロン大統領以降のフランスの税制についての政策変化も念頭に置きながら、各国の税制改正の動きをフォローすることに努めたいと考えている。特に米国は、従前よりマネーロンダリング規制を強化しており(FACTA)、また仏は独と同様に電子申告制度を本格導入したことから、居住者に納税者番号を付与し、金融資産の国外移転を確実に捕捉する制度を整備しつつある。また、国際的な悪質な租税回避(=脱税とほぼ同義と思われる)の取り締まりという点から、ユニークな法制度・警察制度を有しているイタリアの現状をわが国に紹介することも予定している。イタリア法はわが国ではそれほど研究者がいる訳ではないが、実は(フランスを含む)南欧・南米地域の法制度や判例にも非常に影響を与えており示唆に富む。 これらの諸点を、両研究分担者の金融犯罪を重点に置いている個別の研究とも協力しつつ、過度な租税回避に対するわが国の今後の税制改正・金融・証券法制の改正に際しての留意点についても、関連文献の評釈等を手掛かりに適宜検討を加ええる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時と今年度の実際の使用額が異なった理由としては、まず、研究分担者である内海教授が、ご自身が研究代表者となられた科研費を別途取得され、合わせて、横浜国立大学での校務がお忙しくなったことがあげられる。また、研究代表者の松原が、今年度後半に、次年度予算の前倒し請求を行った(これは、2017年3月にドイツ出張を急きょ予定したことによる)ものの、その理由であった2017年3月のドイツ出張にかかわる航空券の予約等をすべて、2017年2月~3月にかけてクレジットカードで行ったため、その利用明細をカード会社からすぐに受け取ることができず、大学への提出が2017年3月末の年度末ギリギリになり、支出自体は今年度内に行われているにも関わらず、年度内の学内の経理処理に間に合わせることができなかった点も併せて申し添えたい。
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次年度使用額の使用計画 |
本報告書の前半に記載した通り、今年度、海外の研究者から予想外に共同研究のお誘いをいただいたことから、アイルランドのダブリンにあるUCD大学とイタリアのボローニャ大学を訪問する際の旅費に回す予定である。特に、2017年9月には、ダブリンで英国法学会(SLS)が開催されることから、そちらの金融法および租税法部会にも出席することで英米法系の租税回避に対する取り組みについても適宜、研究を深めることとしたい。合わせて、大学ではないが、独立した研究組織として、マックス・プランク研究所(ドイツ・ミュンヘン)、IBFD研究所(オランダ・アムステルダム)からも、それぞれ客員講演の依頼と、データベース(日本の主要な国際租税判例の英文要旨)作成の依頼を受けたことから、両研究所との関係も継続的に一層強化していく予定である。
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