申請者は、グローバル化する世界の実情を確認する作業を行い、そこで「近代市民社会における原則的所有形態としての単独所有の原則」がいかなる変容をとげているのか・いないのかを確認する作業を中心に行った。 その際、日本におけるTPP交渉の行方とも絡んでの農業や漁業の自由化状況の確認等も含めて、日本におけるグローバル化対応を確認することも、本研究に欠かすことができない。そこでも、欧州とりわけドイツにおける選択とアメリカにおけるそれは異質であることから、それぞれの地域における実情とその帰結を確認するために、欧米の研究者・実務家との意見交換を行いつつ、試論の構築をめざした。しかし、トランプ政権の成立は、TPPの主唱者であったアメリカが、そこから脱退するという展開となり、日本がアメリカ以外の国との間でTPPの推進役を担うことになった。とはいえ、アメリカが抜けたTPPに実効力はなく、現在では有名無実化しているといってよい。それにもかかわらず、日本政府はグローバル化の名のもとに規制緩和を推し進め、それが現在のコロナ禍の下での医療制度等の問題に深刻な影を投げかけている。こうした事情の急変を背景に、当初予定していたグローバル化の下での新たな経済秩序の構想は、グローバル化の先行きが不透明となったことを踏まえて研究体制の立て直しが不可避となった。 その点を踏まえての状況分析は、取りわけ現在進行中のコロナ危機との関係において先を見通すことが困難なために、若干の時間が必要である。しかしながら、同時並行的に進めてきた明治期における共有型経済を支える法制の成立と展開、その背後にある政治権力の動向についての研究は、すでに「選挙活動の自由と財産所有」(早稲田法学94巻4号、2019年)や「政治的自由と人格の平等」(新田秀樹他編「現代雇用社会における自由と平等」信山社、2019年)などにまとめ、公表済みである。
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