研究実績の概要 |
今年度は,オランダの研究者の協力者を得て,日蘭の相続税における配偶者の問題について比較を行なった。「配偶者」について,わが国もオランダも相続税の優遇措置を講じている。オランダでは,課税上の配偶者を定義し,法律婚における配偶者のみならず,同性婚や一定の事実婚のパートナーをも課税上の配偶者として扱い,配偶者の相続税の優遇措置の適用を認めている。ただし,課税上のパートナーの適格要件に相互扶助義務を課している。他方,婚姻も登録もせず,課税上のパートナーの適用要件を満たさないカップルについては,配偶者の相続税の優遇措置の適用がない。課税上のパートナーに対して相続税の優遇措置を認めることで,相続税の租税回避を目的とした婚姻または同居契約を締結することが懸念されている。また,相互扶助義務を課すことでオランダでは,社会保障政策として,配偶者やパートナーをインフォーマルなケアの担い手として誘導しているとも考えられる。 さらに,本研究では,ワーク・ライフ・バランスに関連してクオリティ・オブ・ライフの観点から租税法や家族法だけでなく,多面的な研究を行なった。税のインセンティブが文化政策,都市計画,住政策,環境に与える影響について,日蘭の比較研究を行なった。オランダでは政策実現のために税のインセンティブが用いられているが,企業に対する国家補助の問題や,世代間の不公平を招来する一因にもなっている。わが国では,文化政策に税のインセンティブはほとんど用いられておらず,それがクリエィティブ産業の育成になっていない面もある。人口減少に伴う都市の縮減に対しては,オランダでは税のインセンティブよりも規制的手法が用いられているが,わが国では,規制的手法ではなく,税制も含めて緩やかな誘導措置が講じられている。しかし,こうした緩やかな誘導によって,政策的な効果が得られるかは疑問である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は,日蘭の研究協力者の協力により,文化政策と税制,環境許可,ワーク・ライフ・バランスと税,民法改正と配偶者の権利,自動的情報交換と国境を超える情報のテーマについて研究を行い,データ等のアップデートを行なったため,調整に時間がかかったため。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き,相続や離婚に関する課題について,家族法と租税法の視点から研究を行い,論文を発表した。また,コンパクト・シティ,住宅政策・住宅税制についても論文を発表した。さらに,ICTと税の関係において研究を行ない,論文を発表した。
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