最終年度である平成30年度は、IFA総会(韓国、ソウル)、EATLP総会(スイス、チューリヒ)をはじめとした国際学会に参加し、租税回避対抗措置としての一般的否認規定(GAAR)、個別的否認規定(SAAR)の各国の対応など国際的租税回避を取り巻く最新の動向について情報を収集し、研究を進めた。研究会に専門家を招聘し、国籍を基準とした納税義務の拡大について、米国の市民権課税と我が国の相続税法の改正について意見交換を行った。 個人、法人の住所や財産の国際的移転による自国の課税権の喪失、二重非課税に対して、各国は、出国税(Exit tax)、国籍離脱税(expatriation tax)、納税義務の拡張などの対抗措置を導入してきた。その一方で、富裕層、高度人材の受入政策により一定の配慮もみられる。 米国の市民権課税及びドイツの出国課税の沿革、個人と法人の出国課税を巡る欧州司法裁判所判決の類型化、租税回避防止指令(ATAD)によるEUのBEPSへの対応を分析し、日独米比較法研究から、我が国の国外転出時課税制度の特徴を明らかにした。未実現利得に対する出国課税は、流出国と流入国の課税権の配分にかかわる。異なる課税のタイミングによる二重課税への対応、納税資金の課題、将来の価値の下落への対応など、執行上の課題を整理し、二国間の適正な課税権配分と二重課税の救済の観点から、納税義務者の情報確保、租税条約による双務的な対応の必要性を指摘した(「国外転出時課税の執行上の課題」税研204号23-28頁(2019))。 なお、EUの租税回避防止指令(ATAD)によるBEPSへの対応については、本研究の一環で昨年共同研究会に招聘した研究者の報告が論文として公表されており、その議論を参考にした。
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