研究課題/領域番号 |
15K03134
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
藤澤 巌 千葉大学, 法政経学部, 准教授 (20375603)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 干渉 / 主権 / 国際連合 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、友好関係原則宣言の起草過程を中心とする冷戦期の国家実行を調査分析し、この時期に「要請による干渉」がどのような機能を担っていたかを解明した。研究上の工夫として、19世紀から20世紀初頭における内乱への軍事介入の国家実行についての筆者のこれまでの研究結果を踏まえ、この伝統的な国家実行と冷戦期の国家実行を比較することによって、冷戦期の「要請による干渉」の機能を浮き彫りにするという手法をとった。 19世紀ヨーロッパにおいて内乱に対する不干渉原則が確立した際、この不干渉原則の例外として国家実行上承認されたのは、当時「自己保存」や「自衛」と呼ばれた国家の安全保障上の利益に基づく軍事介入であり、既存政府の要請には決定的な法的意義は認められていなかった。既存政府の要請の有無は、内乱により「自己保存」の利益が害されているか否かの具体的判断において、干渉国と被干渉国の領域的近接性、王朝間の縁戚関係を含む政治体制の同質性などとともに考慮される要素の一つに過ぎなかった。すなわち、国際法は要請に「自己保存」の判断要素の一つという付随的な意義を与えていたに過ぎなかった。 これに対し、第二次世界大戦以後の国家実行では、既存政府による要請に決定的意義が与えられるようになったが、これは、国連憲章の成立、とりわけ2条4項の武力行使禁止原則の確立により、相手国政府の同意なき内乱への軍隊派遣は武力行使禁止原則に抵触するので、この抵触を回避するため、従来の「自己保存」に基づく内乱への軍事介入を、既存政府の要請がある場合に限定するためであったことが、友好関係原則宣言の起草過程の検討から明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、20世紀初頭までの伝統的国際法における内乱への軍事介入と、冷戦期における内乱への軍事介入の比較検討を行った。 とくに冷戦真っ只中の1960年代における国連総会での友好関係原則宣言の起草過程の詳細な検討から、まず第1に、既存政府による要請という、内乱への軍事介入の条件が、19世紀から存在したものではなく、冷戦期において強調されるようになったことを明らかにした。 また第2に、この既存政府による要請という条件が、武力行使禁止原則の確立を契機に強調されるようになったことも明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、冷戦終結から現在に至る国家実行を調査検討し、冷戦期と比較して、「要請による干渉」の機能に変化が生じているか否かを解明する。研究を効率的に進める観点から、とくに1999年以降の「要請による干渉」の諸事例を集中的に検討する。 具体的には、「要請による干渉」が、伝統的な一般国際法上の「自己保存」に基づく干渉に対して「既存政府の要請」要件によって制約をかけるという消極的機能を果たすだけでなく、国連憲章における集団安全保障の枠組みの中で、安保理の行動を補完する積極的機能を果たしているのではないかという仮説を立て、この仮説が実際にどの程度妥当するかを、諸事例の詳細な検討を通じて検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
直接経費800,000円のうち、ほぼ全額の797,828円を支出したが、2,172円の次年度使用額が残った。これは、物品購入による支出に際してやむを得ず生じたわずかな差額である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、次年度直接経費800,000円に次年度使用額2,172円を加えた802,172円について、冷戦後の国家実行を調査検討するために使用する。 具体的には、冷戦後の「要請による干渉」の諸事例に関わる書籍・資料の購入に、50万円程度使用する予定である。 また、アメリカ合衆国での資料調査に、30万円程度使用する予定である。ただし、大学および政府機関での業務により海外での調査が日程的に不可能となる可能性があるので、その場合には、調査に代えて海外からの郵送による資料の購入により使用する。
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