研究課題/領域番号 |
15K03136
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺谷 広司 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (30261944)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 人権条約 / 建設的対話 / 全体論 / 過程論 / 立憲主義 / 解釈 / 人権基底的思考 |
研究実績の概要 |
研究期間中の成果としては、「人権一般条約の実効性と公正性:『建設的対話』の制度的条件に関する覚書」『国際問題』2019年4月、No.680 (焦点 国際手続きによる人権保護の展開) がある。また、国際法学会年次研究大会(2019年9月2日~4日)2日目第2分科会(於、静岡県コンベンションアーツセンター)で、「国際人権条約の解釈をめぐる一考察――全体論、過程論、立憲主義からの把握」と題する報告をした。前者は、本研究における組織的側面に関する論文であり、後者は、より実体的な内容である。いずれも、当研究プロジェクトの重要部分である。 前者の研究に関して、現在、国連では2020レビューと称される人権機関の審査の在り方に関する見直しが行われており、それをより理論的な視角(実効性と公正性)から見通そうとした。まさにこの理論的側面を深めると共に、実際に行われる2020レビューの行方をフォローしていく予定である。 後者は以前より、重要なポイントの一つだと考えていたが、学会報告を機に考えを深めようとした。実際、有意義であったし、実際自分自身の考えも固まってきている。実のところ、上記の公表業績とも連動しており、解釈の際に、その解釈が行われるフォーラムの特性が反映することは重要な主張の一つとなった。この主張は、私自身が、別途、強制失踪委員会委員として、実務にも関与している経験から来る考察でもあった。この学会報告は、『国際法外交雑誌』に掲載予定であり、現在、様々な側面で報告内容を見直しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記のように、一定の公表成果がある一方で、自身の(非常に楽観的な)計画からは遅れていると言わざるを得ない。理由は、去年と同様である。理由の一つは、それ自体は研究にとって重要だが計画時には予定していなかった仕事として強制失踪委員会の委員を務めていることである(2017年より)。このほか、私的理由や十分に予期していなかった学会事務関連もあるが、ここでは記述を差し控えたい。 一つ重要だったのは、国際法協会の人権関連の委員会が、2020年3月に予定されていたが、新型コロナの影響のために、会合そのものが中止されたことである。この会合は、研究をいわば側面から補強するものであり、研究の遅れの理由の一部となっている。また、新型コロナ自体が、この委員会のテーマである緊急事態における人権保護と関わっているため、この委員会の方向性ないし各委員会の関心が、現時点でまとまりの無いものとなっている。もっとも、この種のまとまりの喪失は、議論の射程を広げる前提としてよく起きることでもあり、最終的には建設的な方向へと向かうと思われ、私自身も有意義な仕方で関与し、延いては、本研究プロジェクトを側面から支えるものとなると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
極めて短期的にいうと、【研究実績の概要】にも記したように、「国際人権条約の解釈をめぐる一考察」と題した報告の『国際法外交雑誌』の原稿執筆を優先したい。締め切りまであまり間がないが、いずれにしても奥深いテーマなので、公表後も継続的に考察を深めなくてはいけない。 もう少し長い幅で見ても、複数の依頼原稿があり、本研究プロジェクトの中で位置づけようと考えている。複数あるうちで最も重要なのは2021年3月末に締め切りを迎えるJapanese Yearbook of International Lawの原稿で、人権と立憲主義に関する原稿となる。これは、研究計画時より中心的な柱として位置づけていたものであり、原稿の依頼は本研究にとっても好機だと思われた。私自身は、多分に自分自身が実務的傾向を強める中で、立憲主義を主張することの意義を以前ほど強くは見出していないのだが、理論的側面を重要視する本研究にとっては、依然として重要な論点である。また、そうした自分自身の変化を、翻って、既存の立憲主義研究に有益なものとして還元したいと思っている。 また、何れにしても、過去の業績を含みつつ、一つの書籍としてまとめることは依然として重要な課題である。 なお、実際上の困難として、2020年に席巻している新型コロナ禍への教育上・各種事務上への対応がどうなっているのかも大きいと考えられ、この点は予測しがたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
重要な支出理由であった、2020年3月の海外研究集会が、新型コロナ禍によって中止となったことが大きい。研究計画を延長しているので、旅費使用に拘わらず、繰り越した分を、物品費、人件費(英文翻訳)などに宛てたいと考えている。
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