研究課題/領域番号 |
15K03141
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
桐山 孝信 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 教授 (30214919)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 国際法学 / 平和主義 / 安全保障 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本の国際法学が国際法の構造分析や安全保障分野で独創的な業績を生み出してきたのは、第2次世界大戦前までは、カントの平和論などの平和主義の政治哲学を基礎にしていたこと、また大戦後には日本国憲法の平和主義を積極的に評価した上で、社会科学としての国際法学を確立することによって成し遂げられたという仮説に基づいて、日本の国際法学の特殊性と普遍性を明らかにすることである。 そのために本年は、主として内外の文献収集、整理と研究状況のサーベイに力を入れた。また、研究課題の基礎付のために、戦後日本の国際法学、特に国際法の構造転換や国際法を社会的基礎との関連で把握しようと努力した石本泰雄の国際法学について素描を試みた。石本泰雄は1950年代末に『中立制度の史的研究』という著書を物し、日本の国際法学の金字塔の一つと評価されるが、その研究に見られるような、経済史の深い理解から近代国際法上の中立制度の成立過程を鮮やかに描ききった。また、中立制度の確立が戦争の自由という観念と表裏一体の関係にあることを指摘し、戦争の自由から違法化への法的地位の変化が、古典的国際法から現代国際法への構造転換の軸となることを指摘するだけでなく、その現象が国際法体系全体の転換を宣明していることを確認した。しかも興味あることに、石本の指摘は日本国憲法の平和主義を、戦争違法化系譜の最先端として把握していることであり、ここに日本における平和主義に基礎づけられた国際法学の一典型を確認することになった。これについて論考を物し、大阪市立大学法学雑誌に投稿した(2016年2月)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
資料収集について、海外での活動を予定していたが、職務の関係上出張することができなかった点で、やや遅れがある。 また、上記石本泰雄の国際法学について検討を加えることができたものの、もう一世代遡った田畑茂二郎や横田喜三郎などの個別の学者の検討は十分になされないままである。 他方で、現代日本の安全保障法政策の転換を目の当たりにして、具体的な状況把握を優先して関連資料を検討したことで、サンフランシスコ講和の時代や日米安保条約の開廷に象徴される年安保の状況と比較することが可能となり、広いパースぺクティブの中で、社会科学者としての国際法学者の役割について考察することができた。これについては、28年度中の早い時期に論考として脱稿できるめどがついた。
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今後の研究の推進方策 |
28年度は、前年度の研究を継続すべく、日米安保条約をめぐって生じた国際法上の問題、例えば、中立制度や集団安全保障、集団的自衛権などをめぐって戦わされた議論に国際法学者はどのように立ち向かったかという点を中心に、そこでの議論が平和主義に基礎づけられた独創的な議論であるととの仮説に立って考察する。その実証のために、欧米諸国の集団安全保障や集団的自衛権をめぐる議論を参照し、日本における国際法学の特殊性と普遍性を確認したい。つまり、欧米諸国の議論も画一的なものではなく、バリエーションがあることはもちろんである。その中で、日本の議論との共通点があるのはどのようなもので、相違点はどの辺に見出されるのか、といった点に留意しながら、社会科学としての国際法学の確立・発展に寄与したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた最大の理由は、計上していた海外旅費を出費しなかったことによる。これはもっぱら大学内での職務上の関係で日程が取れなかったことによる。なお、福州大学への出張があったが、これは招聘されてのものであり、助成金の支出を必要としなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度も職務上の関係で海外への渡航が難しいかもせれないが、なんとか日程を調整したい。海外での調査、研究のみならず、海外研究者との意見交換等に力を入れたい。特に、27年度に招聘いただいた福州大学の研究者とネットワークができたので、場合によっては招聘してシンポジウムの開催なども計画したい。
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