平成27年度は、国際法の刑事化の一側面として、人権保護と刑事化との関係性を中心に検討を行った。具体的には、国際人道法違反の被害者救済が刑事裁判と平行して実施され、刑事責任の問題と民事賠償がリンクし始めている現状を分析した。加えて、こうした国際刑事裁判の実行が、刑事責任を追及するメカニズムを持たない紛争の場合においても、積極的に賠償メカニズムを設置する傾向(victim-oriented approach)を生んでいることを明らかにした。この研究内容は、2017年度夏に英語著書の一部として結実し、11月にドイツ・マックスプランク研究所が主催した「武力紛争被害者に対する賠償」の国際ワークショップで報告・ブラッシュアップされ、2019年にCambridge University Pressから出版されることになった。 加えて、国際法における刑事的規制の強化が国際人権法と抵触する可能性と、それについて国連機関間においてfragmentationが起こっている現状を研究した。具体的には、国際組織犯罪防止条約の批准と共謀罪の国内導入について深刻な意見対立が見られた日本の状況を素材として、ウィーンに本部をおくUN Office on Drugs and Crimeの見解とジュネーブのOHCHRの見解との間に齟齬が生じていることを明らかにした。国際組織犯罪への刑事的な規制を強化する政策が、人権保護の基本政策と十分な調整なく行われている国際法の現状を鮮明にし、この研究内容は2018年3月にベルギーのルーバン・カトリック大学で開催されたEU-Japan Forumにおいて英語によって報告を行った。 また、平成27年度に研究したFact-findingの刑事化の問題について、シンガポールで開催された赤十字国際委員会(ICRC)の国際会議で招待講演を行った。
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