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2016 年度 実施状況報告書

制裁的金銭支払制度による長時間労働規制の研究―日本・中国・台湾の比較研究

研究課題

研究課題/領域番号 15K03153
研究機関九州大学

研究代表者

山下 昇  九州大学, 法学研究院, 教授 (60352118)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2018-03-31
キーワード労働時間 / 労働契約 / 過労死 / 賃金の二倍支払
研究実績の概要

28年度において、中国法の研究としては、中国における労働契約の書面化とその実効確保の手段としての賃金の二倍支払の制裁について研究をおこなった。中国では、1か月を超えて書面労働契約の締結をしない場合に、使用者に2倍賃金の支払いを強制し、他方で、締結に応じない労働者は解約されるという制裁的な方法で、書面化を義務付けている。立法目的は、労働契約内容を明確にし、未然に紛争が生じないようにするためのものであるが、それは、中国が、契約社会として十分に成熟していないことを背景としている。一方で、就業規則や労働協約が中国でも広く機能するようになれば、こうした強制は不要になるかもしれないが、現時点で、こうした義務化を廃止する動きはないようである。なお、上記研究は、平成29年度に研究を拡充した上で、公表の予定である。
台湾法については、2016年9月に台湾で開催された日台労働法研究者座談会に参加し、企業組織変動における労働法の役割に関する台湾法と日本法の比較について学習する機会を得た。また、台湾の研究者と労働時間規制などに関する現状をめぐって意見交換することができ、理解を深めた。この他、同月には、日韓解雇法シンポジウムに参加・報告し、日本と韓国における能力不足の労働者に対する解雇の判例動向について、議論し、理解を深めることができた。こうした機会を得て、アジアにおける労働法の問題状況や共通する労働時間をめぐる問題点などについて理解を深めることができた。
日本法については、長時間労働に起因する過労死の問題や労働時間をめぐる労使慣行について研究を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

現在のところ、【研究実績の概要】で示した通り、日本における長時間労働をめぐる法的問題を広く検討し、付加金制度や損害賠償等による金銭的な救済・規制手法について研究を進めている。昨年、新たな付加金の最高裁判決が出ており、その分析に着手しており、今年10月頃にその研究成果を公表する予定である。この成果により判例法理に対する批判的な見解を示すことで、本件研究の一つの結論を導くことを考えている。
そして、日本法の研究と並行して、具体的な研究成果としては公表していないが、中国については、制裁的な金銭支払いが労働法制の中で多様に取り入れられており、それらの規制及び判例について、かなり研究を進めている。台湾においては、制裁的な金銭支払いが、それほど機能していないという状況である。一方で、中国・台湾ともに、そもそも何をもって「労働時間」と解釈するかという、労働時間の概念・定義の不明確さが、研究を通じて明らかになりつつある。これらの点は、29年度にまとめたい。
そして、日本の付加金制度については、もう一つの付加金制度である船員法上の付加金の制定過程にも着目して、研究を進めている。同時にアメリカ法の研究も行い、今後は、資料収集及びその検討を進め、研究期間内にこうした課題を明らかにしたい。

今後の研究の推進方策

まず、日本の付加金制度の研究として、【現在までの進捗状況】で触れたように、船員法の付加金制度の歴史的な経緯について、資料を収集し検討を行う。これを通じて、ほぼ同時期に制定された労基法上の付加金との比較を行う。そして、最高裁の判例法理を子細に検討し、こうした立法経緯から明らかになった付加金の性質と現状の判例上の性質・機能等について研究を行う。
そして、中国法については、二倍賃金支払の制度に着目して研究を進めてきたが、これと同様の機能を持つ中国の「賠償金」等の仕組みについても、中国の裁判例等の検討を進める。中国の「賠償金」制度は、未払金に加え、その50~100%の金額について、もともとは労働行政機関が、現在では、裁判所も、命じることができるように法改正がなされたものである。特に、罰金や行政罰と違って、違反を犯した使用者に対する制裁金が、それにより被害を受けた労働者に支払われる点で特徴的であり、懲罰的損害賠償が、アジアの法システムの中でどのように位置付けられ、機能しているかを研究するには最良の素材といえる。
こうした懲罰的損害賠償にシステムは、日本の付加金制度などのごく限られた領域に見られるだけであるが、今後は、例えば、違法解雇に対する救済として、こうした懲罰的な金銭支払い制度を検討するための一つの材料を提供できると考えられる。
本(29)年度は、28年に引き続き、研究を進めてきたテーマを深め、さらにそれらをまとめる作業を行う。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2017 2016 その他

すべて 雑誌論文 (6件) (うち謝辞記載あり 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] 勤務成績不良を理由とする普通解雇の有効性-日本アイ・ビー・エム(原告2名)事件,2017

    • 著者名/発表者名
      山下昇
    • 雑誌名

      法学セミナー

      巻: 744号 ページ: 115

  • [雑誌論文] 妄想性障害の労働者に対する休職命令及び休職期間満了による退職の適法性-日本ヒューレット・パッカード(退職)事件2017

    • 著者名/発表者名
      山下昇
    • 雑誌名

      法学セミナー

      巻: 747号 ページ: 127

  • [雑誌論文] 解雇期間中における業績連動型報酬の請求権の有無-クレディ・スイス証券事件2017

    • 著者名/発表者名
      山下昇
    • 雑誌名

      やまぐちの労働

      巻: 605号 ページ: 6-7

  • [雑誌論文] 労使慣行の効力-商大八戸ノ里ドライビングスクール事件2016

    • 著者名/発表者名
      山下昇
    • 雑誌名

      別冊ジュリスト

      巻: 230号 ページ: 58-59

  • [雑誌論文] 長時間にわたる疲労蓄積と業務起因性-横浜南労基署長(東京海上横浜支店)事件2016

    • 著者名/発表者名
      山下昇
    • 雑誌名

      別冊ジュリスト

      巻: 227 ページ: 104-105

  • [雑誌論文] 低成果労働者の解雇に関する最近の裁判例の動向2016

    • 著者名/発表者名
      山下昇
    • 雑誌名

      季刊労働法

      巻: 255号 ページ: 15-26

    • 謝辞記載あり
  • [備考] 九州大学研究者情報

    • URL

      http://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K003123/index.html

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公開日: 2018-01-16  

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