研究実績の概要 |
29年度において、中国法の研究としては、中国における労働契約の書面化とその実効確保の手段としての賃金の二倍支払の制裁について研究を行い、その研究成果を公表した(山下昇「中国における労働契約の書面化とその実効性確保の手段-民事的制裁を通じた労働法上の義務の履行促進」法政研究84巻3号647頁-669頁、2017年12月)。中国では、1か月を超えて書面労働契約の締結をしない場合に、使用者に2倍賃金の支払いを強制し、他方で、締結に応じない労働者は解約されるという制裁的な方法で、書面化を義務付けている。 また、日本の付加金制度について、最高裁判決(最3小決平27・5・19民集69巻4号635頁)に対する判例研究を行い、これを公表した(山下昇「付加金請求に関する手数料の還付請求と付加金制度の目的」法政研究84巻2号479頁-494頁、2017年10月)。付加金の目的として、最高裁は「損害の填補」の趣旨を含むとするが、立法史や過去の判例との整合性がとれないことを指摘し、付加金の性格として、民事的制裁説をとるべきことを主張した。さらに、山下昇「民事的制裁の効能,」(労働法律旬報1902号4頁-5頁、2017年12月)において、民事的制裁を通じた労働法上の義務の履行を促進することの重要性を論じた。 この他、時間外労働の規制(固定残業代等)をめぐる裁判例についての判例研究を行い、それらを公表した(山下昇「割増賃金を年俸に含める合意と使用者の割増賃金支払義務」(法学セミナー753号123頁、2017年10月)、山下昇「歩合給から割増賃金相当額を控除する賃金規定の有効性」(法学セミナー750号111頁、2017年7月))。 これらの研究を通じて、長時間労働を規制する手法として、民事的な制裁金を課すことの有効性を判例や外国の状況から分析し、研究成果としてまとめることができた。
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