フランチャイジー,一人親方,農家,フリーランサー,自営的就労者等,小規模・零細事業者であって取引上,劣位におかれがちな者に対して取引上の地位を濫用する行為の実態と規制の状況を踏まえて,このような問題を競争法又はこれを補完する各種のルールを通じて解決する方法を検討した。また,これらの者の取引上・経済上の地位を向上させるために可能な方策として,競争法上の団体交渉適用除外制度,協同組合制度とその活動に対する競争法の適用除外,労働組合法上の労働者性を承認することについて検討した。これらの問題については,今年度中に,EUにおいて食品及びプラットフォームに関係して,不公正取引(unfair trading practices)問題を解決するためのルール構築の動きがあり,EU加盟国においては競争法その他法令によりこの種の行為を規制するようになる動きがみられる。また,競争法上,団体交渉及びボイコットの適用除外制度を備えるオーストラリアに比較法的に重要な先例及び議論が蓄積している。韓国・台湾は優越的地位濫用を活発に規制してきたことで知られている。このようなことから,オーストラリア労働法研究者及びオランダの競争法研究者と日本において共同調査・研究を実施し,共著論文の執筆に向けた準備を進めるとともに,東アジア圏における規制の状況に関する情報収集に努めた。また,市場メカニズムに過度な介入を行うことなく公正で効果的なエンフォースメントのあり方を,上記研究者と英国を拠点とする研究者とともに議論し,英国研究者とはこの角度からの研究の端緒としてカルテルにかかる競争法執行のあり方にかかる共著論文を完成させた。これらの一連の研究・調査から,日本独禁法の特徴である不公正な取引方法の規制について考察を進めることができた。この考察を踏まえて,日本の独禁法全体を説明する英書を執筆して刊行した。
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