我が国における需要力濫用規制の中核を担う優越的地位の濫用規定は、独禁法の公正かつ自由な競争保護の目的規定に基づき、公正競争阻害性の指導理念(2条9項6号)をさらに具体化した自由競争基盤の確保の要請によって根拠づけられる。これに対し、かかる法体系上の理念的根拠づけに基づき、解釈論を構築する推論構成がドイツ競争制限禁止法(GWB)では困難である。すなわち2018年1月ドイツ最高裁の下したエデカに対する最終判決は、大規模スーパー間で企てられる品揃え拡充等の付随的給付の提供とそれに対する協賛金要請との取引からなる競い合いを、公正な競争秩序を確保する要請から規制しえないため、実効的な規制が困難であることを示す。制定後40年近く、本判決に至るまで本格的な運用実績を欠くこと、また上記最高裁判決の内容と同様の内容の改正を行った連邦参議院の付帯決議や研究者から本規定の有効性に根本的な疑問が提示されていることを勘案すると、以下のドイツ法に対する評価が可能である。すなわちグローバルな競争法であるEU競争法102条と同内容を有するGWB19条の市場支配的事業者の濫用規制の枠組みと整合性を保って規定されたドイツの需要力規制は、一定の限界を明らかしつつあるという評価である。欧州では公正な取引秩序の確保の要請によった英国の綱領審判官制度や、フランスの商法典L.442-6条Ⅰ第2号の事業者間の契約内容の規制が試みられており、この点も勘案すると、欧州の需要力濫用規制は、グローバルスタンダードの市場支配力の濫用規制の枠組みでその規制を試みるドイツのアプローチに対して、かかるスタンダードの枠組みとは異なる各国独自のアプローチの優位も明らかになりつつある。これは、我が国固有の優越的地位の濫用規制が運用実績を蓄積してきた点と合わせ比較法的に重要な問題を提示する。
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