平成29年度では、本研究の当初の計画に従いながら、中国での政治情勢の変更により急に表れて来た刑事司法、死刑制度の新たな局面をも迅速に研究視野に入れて、研究を展開してきた。大きな成果が得られた。 まず、「死刑はすぐ廃止しないが、その適用を徐々に減少して、最終的に死刑の廃止を目指す」という中国政府の方針は変わっていないものの、平成29年度後半から、特に「掃黒徐悪」(犯罪組織を排除し、悪勢力を絶滅させる)という刑事法適用のキャンペーンが開始されたことにより、死刑の制度的改革もその適用の抑制も停滞する傾向に転じて、例えば、この数年間収賄罪に対して控えてきた即時執行死刑の適用が再開されているように、死刑適用が若干増加するようになったことが本研究のなかで明らかになった。 次に、これまでの本研究での成果、特に日本や米国での死刑制度、死刑適用の手続き及びその適用実態、死刑冤罪救済のアプローチを中国に持ち込んで、中国での死刑改革を促進することを本年度の研究の重要な目標としてたが、中国での講演、論文発表、特に中国の刑事司法関係者との直接な交流を通じて、その目的が大いに達成した。特に、安徽省の周氏兄弟5人殺人事件の再審手続きの開始、無罪判決書の作成などにおいて本研究で提示した日本での再審手続き、再審による無罪判決の書き方が大いに参考された。 最後に、本研究の研究成果を、日本語だけでなく、中国語でも英語でも発表することを目標の一つとしていたが、本年度では、日本語と中国語による論文発表ができたほかに、英語による論文または本の発表も米国の出版社と検討することができて、その方向へ進むことには道筋がつけられた。
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