本研究は、民法改正に際して、民法と刑法の関係について、民法の財産関係を巡る規律のエンフォースメント手段として、刑法がどのような機能を有しているのか、及び、どのような機能を有していくべきなのかを、その必要性・許容性も含めて検証することを目的とする。研究最終年度となる本年度は、研究を進めるなかで新たに生じた問題の検討、及び、派生的な問題の検討を行った。 1.研究期間中に、特殊詐欺の事例において、財物の受領を担当する受け子の故意、及び、共謀の認定が問題となる裁判例が続出した。故意、及び、共犯は、(違った形ではあるが)刑法と民法の責任の有無を分ける分水嶺であり、その検討は本件にとって重要な意義を有する。そのため、同事例を素材に、詐欺罪(財産犯)の故意と共謀の下限についての研究を行った。事実認定の手法について類似性が指摘されることの多い覚せい剤密輸入罪との理論的な比較検討を通じて、裁判例の問題点等を発見することができた。研究成果は近日中に公表される予定である。 2.公正証書原本不実記載罪において民法と刑法の関係に関する新たな最高裁判例が登場したため、派生的研究として、この問題も取り扱った。各犯罪類型の要件ごとに民事法上の権利義務関係の持つ意味合いは異なる以上、その取扱いが異なることは当然であり、民法と刑法の関係を一元的に取り扱うことは必須のものではないという観点から、不動産登記簿における物権変動について、刑法上独自の評価を加えるべきではないという結論に達した。 3.昨年度研究した、詐欺罪において契約に関する私法上の規律が及ぼす影響を検討した結果を公表した。 4.研究分担者は、専門的観点から以上の研究に適宜助言・修正を行うとともに、自身の専門である民法、法と経済学に関しての業績を公表している。
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