研究課題/領域番号 |
15K03181
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研究機関 | 桐蔭横浜大学 |
研究代表者 |
竹村 典良 桐蔭横浜大学, 法学部, 教授 (60257425)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リチウム / ボリビア多民族国家 / ウユニ塩湖 / 水不足 / 環境破壊 / 生態系 / 母なる大地 / より良く生きる権利 |
研究実績の概要 |
近年における電子機器の発展に必要不可欠なリチウムについて、世界の半数以上の埋蔵量を有するボリビア多民族国家における産業化による環境破壊と健康被害に関する調査研究を行った。結果として、下記の諸点が解明された。 第一に、ウユニ塩湖とその周辺地域は豊富な動植物が生息する地域であり、人間と動物にとって重要な分水界であることから、ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)によって保護されている。しかしながら、リオ・グランデ・デルタ地帯は、鳥や動物が通年使えるラグーンであり、塩湖の再生に決定的な流域であるにもかかわらず、国際保護機関から世界の34の生物多様性のホットスポットとして分類されている。 第二に、ウユニ塩湖とその周辺地域は、大規模で大量の水を使用する産業化プロジェクトにより、これまでの過剰な水の使用に拍車がかかる虞がある。水不足の悪化は、地域住民の労働、伝統的な農業、生活に著しい影響を及ぼすことが明らかである。この地域の生態系が全体として汚染され、ますます破壊されるであろうことが予測されるにもかかわらず、ボリビア政府はウユニ湖とその周縁地域の深刻な環境破壊の警告に耳を傾けようとしない。このままリチウムから得られる利益の追求にまい進するならば、ボリビアの全生態系が破壊される結末となるであろう。 第三に、リチウムの採掘・加工に使用する有害物質の環境への影響に関心を払わなければ、広範な環境汚染により動植物が危機に晒されることになる。人々の生活環境、動植物の生息環境を破壊するリチウム戦略は、ボリビア多民族国家が標榜する「よりよく生きる(vivir bien)原則」と「母なる大地の権利(right of mother earth)」と矛盾する。より包括的な形態の社会組織を市民社会の内部に形成し、より公正な政治・経済・社会システムを構築しなければならない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第一に、平成27年度の「化学物質に関する調査研究」について、「蜂群崩壊症候群から見る生態系の破壊」および「海洋浮遊プラスティックごみによる海洋環境汚染」に関する調査を行った。とりわけ、南太平洋海流旋回地(gyre)の中央に位置するラパ・ヌイ島(チリ)の現地調査において、絶海の孤島にもプラごみが大量に漂着し、貴重な環境を破壊していること、廃棄プラスチックが波や紫外線でマイクロプラスチックに分解され、食物連鎖を通じて生態系、人間の健康に対する脅威となっていることが明らかになった。 第二に、平成28年度の「核ゴミの管理と処分に関する調査研究」について、国際セミナーへの参加と複数の核ゴミ地層処分実験施設を訪問し、現状と対策について調査研究を行った。平成28年5月に「放射性核廃棄物地層処分に関する国際セミナー」(於トゥルク:フィンランド)に参加し、世界で初めて許可が下りたオンカロ地層処分施設(於オルキルオト)を参観した。また、平成28年8月に、SKBエスペ岩盤実験施設(於オスカーシャム:スウェーデン)、ANDRAミューズ・オトマーン・センター(高レベル放射性廃棄物地層処分場)(於ビュール:フランス)ほかをそれぞれ参観し、最前線の現場の調査研究を行った。 第三に、平成29年度の「リチウム産業化による環境破壊と被害に関する調査研究」について、平成29年8月にボリビア多民族国家を訪れ、ウユニ塩湖、ラグーン(コロラダほか)、リチウム工場(リオ・グランデほか)などの調査を行った。ウユニ塩湖とラグーンの現状を観察し、近年の状況の説明を受け、リチウム工場、キノア農場・工場ほかでは施設を見学し、情報を収集することができた。ただし、リチウム工場はボリビア軍によって厳格な管理がなされ内部調査は行えなかったが、この厳格な管理そのものにより、リチウム産業化が極めて重大な問題を内包することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、「気候変動・地球温暖化対策から生じる逆説的危害に関する調査研究」を行う。気候変動と地球温暖化は人類に対して多数かつ重要な問題を提示している。水や食料のような環境資源をめぐる紛争、気候変動に起因する移住に関係する紛争、資源利用をめぐる紛争、国境を超える汚染の移動をめぐる紛争など。各国政府や地域社会が気候変動に対する解決策を捜し求め、地球温暖化の効果を減じ、それに順応するための方策を採用しているが、これらがネガティブなフィードバック・ループを生み出し、さらなる環境の悪化と基本的人権に対する付加的な脅威をもたらしている。気候変動・地球温暖化対策から生じる逆説的危害について調査分析する。 より具体的には、気候変動は人的・物的資源に影響を及ぼす環境破壊を導き、とりわけ天然資源をめぐる競争的な生活システムは社会的な緊張と暴力を導く激しい闘争に至る可能性を秘めている。旱魃と洪水は極端な気候現象の例であり、気候変動の下に分類され、人々の生活、農業生産および関連する食糧の安全への重大な影響によって特徴づけられる。アフリカの角(東アフリカ)における現在の旱魃状況は日常茶飯に見られる現象であり、予想以上に壊滅的な様相を呈している。きわめて不安定で平均以下の降雨は、広範な食糧危機、栄養不足、悪環境下の家畜飼育、国内・国境を超える大量の人口移動を生み出している。キリマンジャロ山周辺地域に焦点を当て、第一に、どのように気候変動が人間活動と関係する生態系の通常機能を阻害しているか、第二に、気候変動の有害性が暴力の引き金となる可能性のある社会生態系の不均衡をもたらすのか、を解明する。さらに、今後どのような方向に進むべきかを考察し、具体的な行動計画を作成する。
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