共同正犯の成立には、共謀に基づいて実行行為が行われること、すなわち共謀の射程が実行行為に及んでいることが必要であるが、共謀の射程の意義をどのように理解するか、共謀の射程の有無をどのように判断するかについては議論に混乱が見られることから、本研究は、共謀の射程の概念をより明確にするため、わが国の議論を整理するとともにイギリスやドイツの議論も参照しつつ、共謀の射程の位置づけや判断方法について検討し、以下のような結論を得た。 共謀の射程は、広義の共犯(共同正犯、教唆犯、幇助犯)に共通する「共犯の因果性」と同義に捉えるべきでなく、共同正犯に固有の要素である「共同性」あるいは「相互利用補充関係」の問題と理解すべきである。このような理解からは、共謀が実行行為への因果性を有しない場合は、共同正犯、教唆犯、幇助犯のいずれも成立しないが、共謀の射程が実行行為に及ばない場合は、共同正犯の成立は否定されるものの、教唆犯や幇助犯の成立する余地は残ることになる。 共謀の射程の有無は、事案の特徴に応じて、客観的な事情と主観的な事情を総合的に考慮して判断される。共同正犯の錯誤や共同正犯の結果的加重犯は、共同者の一部が当初の合意の内容と異なる(より重い)結果を惹起する場合であるため、共謀の射程の判断においては、従前の共犯行為の寄与度・影響力、当初の共謀と実行行為の内容との共通性、当初の共謀による行為と過剰行為と関連性、過剰結果への関与の程度、犯意の単一性・継続性、動機・目的の共通性、過剰結果の予測の有無・予測可能性の程度等が考慮される。他方、共同正犯関係からの解消は、共同者の一部が犯行の途中で関与を止める場合であることから、従前の共犯行為の寄与度・効果、離脱時における結果発生の危険の程度、結果防止措置の有無、犯意の単一性・継続性、動機・目的の共通性等を考慮し、共謀の射程の有無が判断される。
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