最終年度は、第一に、被疑者・被告人が黙秘権を放棄して供述したり、簡易な手続を選択したりする際に放棄の真摯性を実効的に担保するために、どのような手続的保障が必要であるかについて検討した。具体的には、まず、被疑者取調べにおいて供述の任意性を確保するために取調べ全過程の録音・録画が不可欠の前提であると同時に、録音・録画記録媒体の証拠化について被疑者・被告人に決定権を保障することが必要であることが明らかになった。また、被害者参加制度には、被告人質問における黙秘権の行使を困難にする高いリスクがあることも明らかになった。さらに、手続周辺の環境として軽視されがちであるが、被疑者・被告人の経済状況が、手続選択にあたっての被疑者・被告人の自由な意思決定を阻害し、不利益陳述を強いられる大きな原因になっていることが析出された。 第二に、アメリカにおいて勾留質問や公判で被告人が供述する際の黙秘権放棄の真摯性を制度上、どのように担保し、それらの担保措置が有効に機能しているかを調べるために、ワシントンDC地区裁判所において裁判傍聴を行った。その結果、供述の真摯性を担保するために弁護人の援助が制度的に重視されているが、特に勾留質問では弁護人の援助がかなり形式化しており、供述の真摯性確保を弁護人の援助だけに頼ることには限界があることが明らかになった。 第三に、被害者参加に関して、刑事事件に豊かな経験を持つ弁護士1名にフォローアップの聞き取り調査を行った。その結果、遺影を掲げるなど、被告人に圧迫を与えかねない行動がされている場合があることが明らかになった。 研究期間全体を通じて、黙秘権放棄の真摯性を保障するためには、手続全体にわたって様々な配慮が必要であり、とくに、被疑者取調べの透明化としての弁護人の立会い、被害者参加制度ならびに司法取引制度の縮減が必要不可欠であるとの結論を得られた。
|