研究課題/領域番号 |
15K03186
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
松尾 誠紀 関西学院大学, 法学部, 教授 (00399784)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 不作為犯 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、従前の学説における不作為犯論が、作為犯と不作為犯の構造上の相違に着目して、例えば不作為によっても(作為犯による充足を予定した)殺人罪の構成要件を実現できるかという不真正不作為犯の成立要件ばかりに関心を集中させていることへの問題意識から、不作為犯論を、法益危殆化状況における救助促進システムとして機能的に再構築するということを最終目標とし、その達成に向けて、特に、結果帰責性のない不作為犯の作為義務の内容の解明を目的とするものである。 2017年度は、保護責任者不保護罪の義務内容、結果回避可能性判断を解明するために、それらに関する文献資料、判例資料を収集、検討を行うことを計画した。その結果、その研究成果として、松尾誠紀「保護責任者不保護罪における救命可能性の要否とその認識」『山中敬一先生古稀祝賀論文集(下)』(2017年)99-116頁を発表することができた。同研究成果では、結果帰責性のない保護責任者不保護罪では、その義務を肯定する際に救命可能性が必要か、という点を検討課題とし、その必要性を、道路交通法の負傷者救護義務違反罪との比較を通して考察し、基礎づけることを行った。 さらに、真正不作為犯の基礎理論に関する研究も実施した結果、その研究成果として、松尾誠紀「真正不作為犯における『作為義務』」刑法雑誌56巻2号(2017年)305-318頁を発表することができた。同研究成果では、個人的法益の保護を目的としない真正不作為犯を検討対象とし、いかなる場合にそのような作為義務を課すことが正当化されるのかを検討した。 さらに、結果帰責性のない不真正不作為犯に関して、松尾誠紀「死体遺棄罪と不作為犯」法と政治68巻1号(2017年)75-104頁も発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的を達成するためには、①保護責任者不保護罪(刑法218条)、②救護義務違反罪(道交法72条、117条)、③不救助罪(ドイツ刑法323条c、オーストリア刑法95条)という個別的問題領域の研究とともに、結果帰責性のない不作為犯に関する一般的研究が必要であるが、すでに、個別的問題領域①②の研究と、結果帰責性のない不作為犯に関する一般的研究には、十分な理解の深化が見られる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、個別的問題領域に関する研究として、ドイツ・オーストリア刑法の不救助罪の義務内容および結果回避可能性判断を解明するため、それらに関する文献資料、判例資料を収集し検討を行いたい。さらに、一般的研究として、保護責任者不保護罪、道路交通法上の救護義務違反罪、ドイツ・オーストリア刑法の不救助罪という個別的問題領域に関する研究の成果を踏まえて、結果帰責性のない不作為犯の義務内容措定の基準、および結果帰責性の不存在と結果回避可能性判断との関係に関する詳細な基礎づけに向けた研究を本格化させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度は、所属先である関西学院大学より6か月間の留学の機会と留学助成金を得ることができた。2017年度の研究費にはその留学助成金を使用することができたため、次年度使用額が生じた。生じた次年度使用額は、物品費、旅費、人件費に使用することを予定している。
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