本研究課題は、法益危殆化状況における救助促進システムとして、不作為犯論を機能的に再構築するという最終目標を達成するために、結果帰責性のない不作為犯の作為義務内容の解明を目的とするものである。2018年度は、結果帰責性のない不作為犯として、不作為による死体遺棄罪および道路交通法上の負傷者救護義務違反罪・報告義務違反罪について研究し、その研究成果を発表した。 不作為による死体遺棄罪に関する研究成果は、松尾誠紀「不作為による死体遺棄の継続を認めて公訴時効の完成を否定した事例」新・判例解説Watch24号(2019年)173-176頁である。同論文では、不作為による死体遺棄罪の継続性を認める判例を批判的に考察し、不作為による死体遺棄罪にいう埋葬義務の本質を明らかにすることで、その継続性が否定されるべきことを基礎づけた。 道路交通法上の負傷者救護義務違反罪・報告義務違反罪に関する研究成果は、松尾誠紀「自動車運転者の救護義務・報告義務の履行とは相容れない行動と道路交通法違反の罪」平成30年度重要判例解説(2019年)162-163頁である。同論文では、運転者が人身事故を起こしたことを認識したにもかかわらず、その認識時点から自車を150m進行させた行為について救護義務違反・報告義務違反の成立を否定した裁判例を題材に、義務履行の猶予が生じる原理について考察した。 いずれの研究成果も実務上の喫緊の課題について掘り下げて考察するものであるから、今後の同分野に関する議論に資するものである。
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