研究課題/領域番号 |
15K03192
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
コーエンズ 久美子 山形大学, 人文学部, 教授 (00375312)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 証券振替制度 / 担保制度 / 支配契約 / コントロール合意 / Control Agreements |
研究実績の概要 |
本研究は、証券の口座振替制度における担保制度のあり方について、「わが国の社債、株式等の振替に関する法律」が規定する口座記録の移転以外の方法による担保権の設定、すなわち担保権設定者(口座名義人)、担保権者、口座管理者の3者間の合意(「支配契約」「コントロール合意」などと呼ばれる)による担保権の設定について検討、日本法への導入を考察するものである。そもそも口座振替制度にあっては、口座管理機関の事実上の関与がなければ口座記録の移転は生じないという制度の特徴に照らせば、口座管理機関を含む3者間の合意による担保権の設定は合理的な仕組みであるといえる。しかしながら、わが国の伝統的な担保法制、物権法理からは極めて異質な発想であり、実務界もそれほど関心を持っているようにも思えない。そこでこのような担保制度を有しているユニドロア条約、アメリカ統一商法典第8編、とりわけ、まずはアメリカ統一商法典第8編の立法過程の議論について調査を行うこととした。 この調査に関しては、ペンシルバニア大学ムーニー教授のご協力を得られることができ、主にテキサス大学において保管されているアメリカ統一商法典第8編の1994年改訂に関する資料を入手することができた。そして起草委員会の資料の分析から、従来より顧客の証券を預かる証券会社が、当該顧客に対する融資者が証券を担保として徴求する際、証券を移転させることなく、以後、証券会社が融資者のために証券を預かる旨合意するといった実務が展開されていたことが確認された。こうした実務を法的に承認し、担保設定の方法として条文化したのが、「支配契約、コントロール合意(Controal Agreement)」であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究成果についてはムーニー教授との共著論文(英語)として公表することとし、平成27年7月21日、日本銀行金融研究所において報告を行った。本報告において、コントロール合意による担保権の設定が、とりわけ証券口座全体、すなわち証券の銘柄と数量が常時変動する「口座」に対する担保権の設定を可能とする方法であり、これがわが国における金融取引にとって有益であることを主張した。研究会参加者のコメントも概ね肯定的なものであったが、実務的には、合意書のひな型の作成などが必要であり、実際にこの手法によって担保権を設定しているアメリカ等の実態について、調査を進める必要があることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのムーニー教授との研究成果については、共著論文"SECURITY INTERESTS IN BOOK-ENTRY SECURITIES IN JAPAN:SHOULD JAPANESE LAW EMBRACE PERFECTION BY CONTROL AGREEMENT AND SECURITY INTERESTS IN SECURITIES ACCOUNTS?"が、University of Pennsylvania Journal of International Law, vol.38, no.3において公表されることになっている。 また、日銀金融研究所での報告、および本論文の執筆過程において、証券口座に対する担保設定の分析の中で検討した集合債権・集合動産の譲渡担保権については、さらなる検討がわが国の金融取引において極めて重要であろうという共通の認識に至った。来年度以降も共同態勢で研究を進めて行く予定であるが、証券担保の実務調査に加えて、集合債権・集合動産担保についての実態調査等も開始する予定である。
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