研究課題/領域番号 |
15K03192
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
コーエンズ 久美子 山形大学, 人文学部, 教授 (00375312)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 証券振替制度 / 担保制度 / 支配契約 / コントロール合意 |
研究実績の概要 |
本研究は、わが国の証券の口座振替制度における担保制度について、口座記録の振替によらない、担保権設定者、担保権者、口座管理機関の3者間の合意による担保権設定の制度構築の提案のために、法的整合性、法改正のあり方、といった視点から検討するものである。口座振替制度は、口座管理機関が事実上の口座振替権限を有する仕組みであるから、こうした担保権の設定は合理的であるだけでなく、何よりも口座全体を担保化する法的基盤となるものである。この仕組みは、もともと米国において顧客の証券を預かる証券会社が、当該顧客に対して融資を行う金融機関等が証券を担保として徴求する際に、証券を移転させることなく、爾後、証券会社が金融機関等のために証券を預かる旨の合意をしていたという実務から発生したものであることをアメリカ統一商法典第8編の起草委員会の資料の分析から明らかにした。 また近時のFintechの発展により、口座振替制度の仕組み自体を検討する必要性が生じてきている。2016年9月15日、オックスフォード大学で開かれたIntermediated Sicurities Wrkshopに参加し、ユーロクリアからの技術的な可能性についての説明を踏まえ、イギリス、オランダ、アメリカの研究者、実務家と情報・意見交換をした。今後、引き続きの検討課題である。 なお、証券口座の担保化の中で検討した集合債権・集合動産の譲渡担保について、さらなる検討がわが国の金融取引において極めて重要であるとの認識から、とりわけ登録制度(わが国の動産・債権譲渡登記法)のあり方を中心に、実態調査を踏まえた法制度の見直しの必要性等について検討する方向で研究を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コントロール合意(Control Agreement)による担保権の設定については、ペンシルバニア大学(米国)のムーニー教授との共同研究として、共著論文'SECURITY INTERESTS IN BOOK-ENTRY SECURITIES IN JAPAN: SHOULD JAPANESE LAW EMBRACE PERFECTION BY CONTROL AGREEMENT AND SECURITY INTERESTS IN SECURITIES ACCOUNTS?'として公表するととし、最終校正が終了したところである(平成29年4月発行予定)。さらに、オックスフォード大学におけるIntermediated Securities Workshopに参加し、Fintechによる口座振替制度のあり方、ヨーロッパにおけるカストディ契約の問題点などについて情報・意見交換をした。今後の検討課題を明確にすることができた。 また、動産・債権譲渡登記法を利用したABLについて、その実態を把握する目的で、経済産業省、法務省、弁護士、司法書士、金融機関等に聞き取り調査を行った。それまでの調査を踏まえ、国連商取引委員会第4回担保取引法コロキアムにおいてわが国の状況について報告した。
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今後の研究の推進方策 |
証券の口座振替制度については、オックスフォード大学で開催されるIntermediated Securities Workshopにおいて貴重な情報を収集することができる。1年に数回の開催が予定されているので、引き続きSkype等を通じての参加を含めて、情報収集をしていきたい。またそれを踏まえて、今後の制度のあり方について検討する。 他方、動産・譲渡登記を利用したABLについては、よりシステマティックな実態調査の必要性が課題である。2016年に行った聞き取り調査を踏まえ、調査の全体像、今後の研究の方向性を具体化しているところである。 なお、これらの研究は、引き続きペンシルバニア大学(米国)のムーニー教授と共同で行うこととし、上記課題について協議を続けている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画においては予定されていなかった2017年度に実施する聞き取り調査行うために、旅費を確保する必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
聞き取り調査のための旅費として使用する。
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