本研究は、わが国の証券の口座振替制度における担保制度について、口座記録の振替によらない、すなわち担保権設定者(口座名義人)、担保権者、口座管理機関の3者の合意(「支配契約」「コントロール合意」などと呼ばれる)による担保権設定の制度構築を提案することを目的とする。そしてそこで得た知見から、さらに預金口座、電子記録債権について、国際商取引委員会の電子的移転可能記録についてのモデル法などの検討を踏まえつつ、基礎理論、担保法制について考察することである。 証券の口座振替制度については、ペンシルバニア大学ムーニー教授とともに、アメリカ統一商法典第8編の起草委員会資料を含めたアメリカ法の分析、および私法統一国際協会が策定したジュネーブ条約の規整方法の分析などを踏まえて日本法への導入について考察した。その成果を日本銀行金融研究所において報告するとともに、共著論文をUniversity of Pennsylvania Journal of International Lawに寄稿した。 当初は、先に述べた通りこの成果を踏まえ、預金口座、電子記録債権について検討を進めることを計画していたが、近時、大きな注目を集めているビットコインを支えるブロックチェーンなどの分散型台帳技術が決済システムの仕組みを大きく変える可能性が唱えられるようになって来た。わが国においてもさまざまな実証実験、検討がなされて来ている。そこで、まずはこうした動きについて整理をした上で、分散型台帳技術を前提に研究を進める必要性があると判断したところである。それゆえ本研究最終年度は、仮想通貨をめぐるさまざまな法的問題を分析しつつ、証券決済制度についての実証実験を素材に今後の検討課題等を整理した。
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