研究課題/領域番号 |
15K03193
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤田 友敬 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (80209064)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 海事法 / 仲裁 / 判例法 |
研究実績の概要 |
研究2年目の平成28年度は,(1)国際海事仲裁における紛争解決規範と国内裁判規範との乖離の検証,(2)理論的な分析の2つを行った. まず平成27年度に着手した,ロンドンにおける仲裁判断とイギリス裁判所の判例法との異同に関する検証を行った.とりわけ,国際海上物品運送及び傭船契約の領域におけるFIO条項を中心に行った。また海難救助における救助報酬,船舶衝突における過失の扱いについても検討を行ったが,船舶ファイナンスや造船の領域について検討範囲を拡張することはできなかった. なおロンドンと並ぶ国際的な海事仲裁フォーラムである,ニューヨークにおける仲裁判断例についても,①運送人の特定に関する基準,②責任制限阻却事由に関する考え方,③保証渡しをめぐる法律関係等の検討を開始したが,仲裁判断に関する資料の入手に難があることが分かった. 理論的な側面としては,前年度に着手した国際商事仲裁の法化と仲裁規範の独自性に関する検討をさらに進めることになるが,発見されたロンドンにおける仲裁判断とイギリス裁判所の判例法の乖離について,現段階では,その在り方がかなりランダムにも思われる点が難問である.差し当たり,①対象となるルールと,②判断者の属性の双方が影響を与えているのではないかという作業仮説に基づく検証を行った.①は,判断者の裁量的判断が大きいルールほど大きな乖離が生じているということであり,②は,(a)海事仲裁人の方が裁判官よりも多くの経験・知識を有していること,(b)手続がインフォーマルであり,厳密な証拠資料に基づく判断を強いられないことが,影響を与えるという仮説である.これにより説明できる要素がある程度存在することは確認できたものの,その程度についてはさらなる検証が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロンドン仲裁に関してはおおむね予定通りに進んでいる.これに対してニューヨーク仲裁については,仲裁資料へのアクセスの困難性にゆえに,研究方法を再検討する必要がある.もっとも仮にニューヨーク仲裁について,検証対象から外したとしても,本研究全体としては,必ずしも大きく失敗することになるわけではないため,おおむね順調と考えて良いと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
(1)国際海事仲裁における紛争解決規範と国内裁判規範との乖離の検証 ロンドンにおける仲裁判断と国内裁判規範の乖離に関する検討を継続すると同時に,前年度までに得られた結果とあわせて包括的な検討を行う.仲裁手続の違い,仲裁人の選任方法等の違いにも留意しつつ,その特色について分析する.ニューヨークについては,仲裁資料の入手方法を含め,研究方法を再校し,場合によっては,これに代え大陸法系の国における国際海事仲裁(たとえばパリ海事仲裁会議所(CAMP)の仲裁裁判例)や近時存在感を増しつつあるアジアの国際海事仲裁(シンガポール国際仲裁センター)にも視野を広げるように努力したい.
(2)理論的な分析 理論的な側面については,発見された仲裁判断と国内裁判規範の乖離が,いかに説明されるか,正当化されるかという具体的な問題関心からの分析を行うことになる.同時に,どこまでが海事仲裁固有の話か,国際商事仲裁一般にも妥当する要素はあるかという点を検討するために,可能な範囲で,海事以外の国際仲裁(国際投資仲裁や知的財産に関する仲裁)の例との比較を行うこととしたい.
研究成果の公表については,できるだけ早い時期に,海法会誌その他専門のジャーナルへの寄稿という形で行いたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
為替の変動等により,洋書注文額が予定を下回った.
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次年度使用額の使用計画 |
4円という少額なので,適宜消耗品あるいは備品の一部として使用したい.
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