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2016 年度 実施状況報告書

変動する物的担保法制の現状分析と将来的展望:日仏間の比較法的検証を通じて

研究課題

研究課題/領域番号 15K03196
研究機関横浜国立大学

研究代表者

今村 与一  横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (30160063)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2018-03-31
キーワード物的担保 / 動産質 / 不動産質 / 抵当権 / 債務整理手続 / 占有担保 / 非占有担保 / 分類基準
研究実績の概要

今世紀に入ってから、物的担保法制に関し、相前後して日本法およびフランス法の立法上の大変動があった。これらふたつの法の比較検討により、その変動原因を明らかにし、今後の変化の赴く先を見通すことが本研究の目的である。
平成28年度は、研究計画初年度(平成27年度)に引き続き、国内外の文献・資料による補完的な調査を実施した。初年度中に実施予定であった「変動する物的担保法制」研究会も、昨年12月27日、ようやく開催することができた。
その成果を要約すれば、従来、フランス法における質制度については、ほとんど知られておらず、その影響が日本民法にどこまで及んでいるのか、関心さえ示されないのが実情であったが、抵当制度とは対照的に、フランス法が、特に不動産質に対する警戒心から、質制度全体を冷遇していたことが判明した。このため、「有体動産」(自動車、航空機等)の担保化は、あげて特別法に委ねられ、「無体動産」と呼ばれる知的財産権の担保化も、民法典の外で発展してきた。不動産担保の王座を占めていた抵当権は、広い意味での倒産(債務整理)手続において無力化し、第二次大戦後、不動産担保離れの現象が顕著であったことも確認することができた。こうした前世紀末までの状況から、2006年のフランス民法典改正が断行されたものと考えられる。2006年の法改正の内容は、現在、総合的な分析・評価の途上にあるが、占有と非占有、動産と不動産という従来の分類基準を根本的に改める劇的変化であることは疑いなく、2016年の債権・債務法大改正の契機ともなり、フランス民法典の外観のみならず、その内容上の変貌ぶりは予想以上のものがあるように思われる。
前年度に実施予定であった国内および海外調査をできるだけ早く実施し、ヒヤリング等を通じて文献・資料による新たな知見を厳密に検証しなければならない。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

前年度には、行政職に伴う種々の業務遂行(とりわけ、本務校における法科大学院関係の財政支援策など)を最優先し、海外調査をはじめ、本研究に注げる時間とエネルギーが絶対的に不足していた。このため、金融取引上物的担保とともに活用されている人的担保に関する現状分析も中断せざるをえなかった。
研究対象に関して言えば、日本法にせよ、フランス法にせよ、質制度に関して見るべき先行研究がほとんどないに等しく、ローマ法から、中世教会法、フランス民法典へと継承される質制度の歴史的な歩みを総ざらいするだけでも一苦労であった。旧民法を起草したボワソナードは、明治期日本での不動産質取引の盛行を身近に観察し、日本の実情に即応した制度作りを心がけたというが、明治民法上の不動産質は、フランス民法典で否定されたはずの「死質」(質権者による収益権限の行使が元本償却につながらず、きわめて高利的色彩の強いもの)であった。その制定過程では、流質契約の禁止規定をめぐって不要論が唱えられたほどであり、高利の常套手段であった質権に対し、全く無警戒の民法が出来上がったことになる。これは、譲渡担保をはじめとする非典型担保への警戒心の欠如とも相通じるところがあり、そうした従来の通念を打ち破る地道な作業は、それ自体が困難を伴うことを痛感している。
海外調査は、そのための時間さえ確保できれば可能だが、具体的な訪問先がいまだ確定しておらず、早急の対応が求められる。国内調査も同様である。

今後の研究の推進方策

すでに最終年度を迎えていることから、当初の研究計画を手直しする必要がある。具体的には、まず、海外調査を本年度の早い時期に実施し、文献調査による成果の検証を急ぐこと。次に、国内調査については、研究成果の発表のために本年度予定された企画(シンポジウム、研究会等)の準備作業を兼ねて、神奈川県司法書士会、司法書士連合会および関連不動産会社とのやりとり、個別のヒヤリングを重ねながら、国内でも変動著しい担保取引の現状を把握することである。
研究成果の公表は、ヒヤリングに協力してもらった関係者の方々にも参加を仰ぎ、実務的視点を生かした総括に努めたいと考えている。積年の課題となっている「抵当信用の法――フランス法の軌跡」の完成は、おそらく本年度以降にもちこされるものと思われるが、その一端でも本年度中に公表できればと切望している。

次年度使用額が生じた理由

最大の理由は、前年度(平成28年度)に実施予定であった海外調査を実施することができなかったことである。国内での調査も実施に至っておらず、本年度(平成29年度)に繰り越しをせざるをえない状況にある。

次年度使用額の使用計画

本年度の前半期において海外調査を実施することを最優先する。国内調査は、成果発表の企画準備の一環として、司法書士会等の関係機関との連絡を積み重ね、個別のヒヤリングを併用しながら、不動産担保取引の低迷、これに代わる金融手段の開発など、現下の状況把握に必要な情報を収集し、上記の成果発表に間に合うよう、その分析・整理を進める。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2016

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] 変動する日仏物的担保法制の概観2016

    • 著者名/発表者名
      今村与一
    • 学会等名
      「変動する物的担保法制」研究会
    • 発表場所
      横浜国立大学国際社会科学研究院
    • 年月日
      2016-12-27

URL: 

公開日: 2018-01-16  

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