今年度は、1955年の公示制度改革から現在に至るまでの抵当権の時効に関するフランス法の展開について研究した。 1955年1月4日のデクレによって、フランスでは公示制度が改められ、未成年者・禁治産者の法定抵当権、妻の法定抵当権も公示しなければ第三者に対抗できないものとなった。マゾオは、旧第2180条第4号第3文が、抵当権が隠れたものであった時代を前提とするものであるとした上で、1955年に改められた公示制度の下では抵当権の時効が権利者にとって危険なものとなっていると指摘する。 1955年以降の通説は、取得時効の効果が原始取得であるとする。もっとも、ここでいう原始取得とは、占有開始前に不動産に設定された物的負担(すなわち、抵当権や地役権)を消滅させるものではない(なお、占有開始後に設定された物的負担は、時効の遡及効によってその効力を失い、占有者は登記なくして自己の所有権を対抗できる)。旧第2180条第4号第3文の抵当権の時効は、取得時効の完成後も存続する抵当権、つまり、占有開始前に不動産に設定された抵当権を消滅させる方法と位置づけられる。バンドラックは、旧第2180条第4号第3文の時効を抵当権の消滅時効と解する。また、ゼナティは、占有者が抵当権の「解放(liberation)」を占有し得るとした上で、旧第2180条第4号第3文の時効が、抵当権からの解放の時効取得を定めたものと解する。 担保法改正の予備草案第2488条は、抵当権の時効を定めなかった。もっとも、その理由は明らかでない。最終的に、2006年3月23日のオルドナンスは、旧第2180条を第2488条に改め、時効に関する従前の規定を実質的に維持したが、その理由も明らかにされていない。
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