研究課題/領域番号 |
15K03202
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松中 学 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (20518039)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 会社法 / 新株発行 / 第三者割当て |
研究実績の概要 |
本年度は、(a)現状確認および(b)株主総会に決定権限を与えるルールの当否・代替案の検討を行った。特に、(1)平成26年会社法により導入された会社法206条の2に関する議論のレビュー、および、(2)近時の第三者割当てをめぐる裁判例の分析を中心に研究を行った。 (1)は、206条の2が適用される場合とそうでない場合の解釈論上の検討を行った。形式的な規律である206条の2が取りこぼすこととなる場面では、不公正発行への解釈に反映させられるのではないかとの示唆を得た。これは、(a)の一環であるとともに、(b)総会決定ルールの抱える問題点の解決に資する。 (2)は、差止めの事案ではないが、新株発行の価格に関する決定権限の所在をめぐって重要な裁判例としてアートネイチャー事件の最高裁判決が登場したため、この検討を行った(論文1)。本研究課題との関係では、この判決は、取締役会に権限を与えるべき場面とそこでどのように審査を行うか、特にどのような事情があれば利益相反があるとして厳しく審査すべきかという点で意味を持つ。また、閉鎖会社をめぐる裁判例については、従来の研究を進展させて検討した(学会発表2)。本研究課題との関係では、仮に裁判所が取締役会の判断について厳格な審査をしていれば、株主総会に決定権限を与えるという解決をとらなくてもよかった可能性を示唆している。同様のことは、上場会社についても生じ(てい)る可能性がある。 以上のほか、間接的に本研究課題と関連するテーマとして、株式評価をめぐる問題(論文2)、および証券市場における不正を防ぐためのエンフォースメントの仕組みについて検討した(学会発表1)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、(a)現状確認、および(b)株主総会に決定権限を与えるルールの当否・代替案の検討のうち、(a)は十分な検討を行うことができ、(b)は代替案については一部検討すべき問題が残っているものの、当否については予定したもの以上の示唆を得ることができた。そのため、総合的にみると、おおむね順調に推移していると評価した。 以下、(b)についてやや詳細に述べる。上場会社に関しては、まだ裁判例の検討を行ったにとどまり、代替案(特にガバナンス構成を通じた規律)は十分に検討できていない。他方、閉鎖会社についての従来の研究を進展させることで、新たな視点を獲得した。すなわち、大規模な第三者割当てについて、株主総会決議を経させるというルールが必ずしもその内容の合理性から採用されるのではなく、裁判所による審査が十分に機能しないことによって(平たくいえば「仕方がなく」)選択される可能性を明らかにできた。今後、上場会社について検討する際にも、証券取引所の自主規制や平成26年改正において同様の構造の問題がみられたのではないかという視点から検討する余地が出てきた。また、裁判所が受け入れやすい・使いやすい不公正発行の解釈を示すことで、非効率な形で株主総会に決定権限を与える事態を回避することを探る余地もある。 以上に加えて、本研究課題は、主に日本法を対象とするものであるが、海外において関連するテーマも含めて2度の報告をする機会があった。この点も進捗の評価の根拠とした。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、まず、上記(b)株主総会に決定権限を与えるルール(総会決定ルール)の当否・代替案のうち、昨年度十分に検討できなかった代替案についての検討を行う。具体的には、当初の計画から想定していたガバナンス構造の規律を通じた規制に加え、限定的な総会決定ルールを採用した上で、形式的にはそこから漏れる事例を不公正発行を通じて規律していく方策も検討する。後者は、昨年度の検討結果から新たに得た方向性であり、「総会決定ルール」の代替案とも、「総会決定ルール」の問題の克服とも位置づけることができる。これは、会社法206条2と不公正発行事由の解釈という形でまとめて、研究会・論文等で公表する予定である。 続いて、(c)「総会決定ルール」を前提とした差止めによる規律のあり方について検討を行う。ここでは、デラウエア州の判例も参考にして、大規模な第三者割当てにおける取締役が負っている義務の内容を分析することから始める。これは、従来、特に支配株主と対立する中で行われる大規模な第三者割当てについて、取締役がそもそもどのような義務を負っているのかが十分に明らかにされていなかったためである。デラウエア州法については、近時の動向にも注意した上で、日本法の検討部分とは一応切り離した上で、レビュー論文としてまとめる予定である。 以上が終わったのち、総会決議を経ているものの、問題のある新株発行についてどのような事情があれば差止めを認めるべきかを検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に出席を検討していたアメリカの学会に出席しなかったことが理由である。出席しなかったのは、同時期・近い時期に海外において他の報告機会を得ることができたことによる(学会発表1および2)。いずれも近距離であったことに加えて、一部旅費等の援助があったため、おおよそアメリカへの旅費との差額が次年度使用額となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度は、国内における報告のための旅費に加えて、昨年度参加した海外ワークショップの1つが開催されないこともあり、海外での発表と議論の機会を確保するため、アメリカで開催されるLaw and Society Associationにおいて本研究課題と関連する報告を行う予定である。そこで、今年度は、昨年度より多くの海外旅費の使用を予定している。また、研究用パソコンの購入と近時の立法および裁判例を踏まえた研究課題にかかる図書等を購入する。
|