研究課題/領域番号 |
15K03204
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
名津井 吉裕 大阪大学, 高等司法研究科, 教授 (10340499)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 法人でない社団 / 当事者能力 / 登記請求訴訟 |
研究実績の概要 |
①「登記制度と登記関係訴訟」および②ドイツにおける「原告能力を認める改正」に関しては、既発表の論文を手直しする過程で検討した結果を、単著『民事訴訟における法人でない団体の地位』(大阪大学出版会・平成28年)として刊行した。これは従前の研究の集大成でもある。また、③事件類型別の判例研究としては、「当事者能力と当事者適格の交錯」法律時報88巻8号(日本評論社、平成28年)4~12頁として発表した。 ①については、代表者個人名義への移転登記を求める登記請求は、社団の事件として把握すべきであることを正面から説いたものである。同判決が認めた確定判決の効力が構成員に及ぶとの論旨は、前年度の研究成果として公表した論文(「法人でない社団の受けた判決の効力」)において固有適格構成を前提とした判決効拡張を論じたところであるが、上記書籍に収録した①に関する論考では、同論文を踏まえた補足をするとともに、従前の主張を再確認している。 ②については、権利能力なき社団の原告能力を否定してきたドイツ法を支える前提条件が何であるかが、上記書籍に収録された研究によって突き止められていることを前提に、これを補完する研究を付け加え、原告能力が承認されたことの必然性について論証している。 ③については、とりわけ政党の下部組織の当事者能力を素材として、活動地域の限定された団体の当事者能力の判断にあたり、当事者適格との交錯が指摘されてきた点について、当事者能力の判断と当事者適格の判断の峻別を明らかにしたものである。 なお、本研究の内容とは直接的な関係はないが、この間に得た助成を活用した成果として、「私文書の真正の推定における証拠法則の再検討」山本克己=笠井正俊=山田文編『(徳田和幸先生古稀祝賀論文集)民事手続法の現代的課題と理論的解明』(弘文堂、平成29年)233~252頁も発表している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
①計画していた在外研究を予定通り実施することができたこと、②社団関係訴訟の判例(最判平成26年2月27日)の研究、ドイツ民事訴訟法改正に関する研究を含む、単著の前掲書籍を刊行することができたこと、③事件類型別に当事者能力と当事者適格の交錯状況を分析した前掲論文を公表することができたことなどにかんがみ、当初の研究計画はほぼ達成し、新たな課題の発見に至っている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度も平成28年度と同様、短期の在外研究を予定している。区分所有権法に関する所有者団体が当事者となる訴訟よりも、当事者確定との関係の研究を優先したいと考えている。これは、当事者能力の判断に隣接して生ずる問題として、当事者の実在という問題があるところ、団体が実在しないことが判明した場合、確定された当事者が実在しないという不自然な状況が生じる。ドイツ法では、わが国であまり知られていない「表見当事者」の概念が採用され、その適用場面として、実在しない表見当事者の確定判決には、内容上の効力が生じないという議論がある。形式的当事者概念と表裏の帰結という側面が強いが、他方で、表見当事者は、氏名冒用訴訟や死者名義訴訟の判決効が、相続人や冒用者に及ぶと解する立場では、当該判決の有効性を認めることを前提に、当該判決の効力がこれらの者に及ぶとの解釈の基礎を提供する面もある。限られた局面ではあるが、実在性が否定されても、判決の内容上の効力が否定されない場合があり得ることになるが、なお具体的な調査が必要であり、研究が進展すれば、わが国の当事者確定論、判決効拡張論にも裨益する可能性があると考えられるため、目下のドイツ法の調査に取り組んでいる。
|