不動産登記能力を欠く法人でない社団が登記請求訴訟の原告となるには、代表者個人への所有権移転登記を求めて提訴する方法が社団の法律関係を手続に反映できる点で優れている。この論旨を含む著書の刊行によって本研究は当初の目的を果たしたため、最終年度は、当事者能力の欠缺を看過した場合の効果の研究に着手した。この問題は民事訴訟法29条に要件を具備しない団体に当事者能力を認めた場合等に生ずる。 もっとも、当事者能力の欠缺を看過した判決に関しては、これを無効とする有力説もあるが、通説はその事件に限って当事者能力があるものと扱うためか、この判決の処理方法が直接的に問題となった裁判例は見当たらない。しかしながら、当事者の確定で言及される死者名義訴訟は、提訴前に死亡して当事者能力のないことが看過された場合として、また、氏名冒用訴訟は、冒用者に訴訟追行権がないことが看過された場合としてそれぞれ再構成することができるところ、いずれの場合も相当な判例・学説が蓄積している。 このように当事者能力や当事者適格の欠缺が、当事者の確定と交錯する余地があることに着眼すると、新たな研究領域が開拓される。すなわち、死者名義訴訟や氏名冒用訴訟では、従来もっぱら判決後の後始末が検討されたが、判決無効の可能性があることに照らせば、訴訟開始段階で処理するのが望ましい。しかし、この観点からの先行研究は見当たらない。そこで、昨年度公表した論文では、訴訟開始段階において訴訟係属後の当事者能力・当事者適格の欠缺を回避する観点から、誰が当事者であるかを確定する必要性があること、処分権主義が支配する当事者の特定と当事者の確定とは明確に区別すべきこと、訴訟開始段階における当事者確定の基準とされてきた形式的表示説の不当性等を論証し、実質的表示説に即して当事者を確定する際の判断構造を解明した。
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