平成29年6月2日法律第44号「民法の一部を改正する法律」による民法(債権関係)改正(本研究の開始後、施行日が平成32年4月1日に決まった)に関しては、民法総則あるいは債権法分野に関しては検討が進んでいるが、物権法ならびに不動産登記法分野への影響に関しては、考察が遅れている状況にあったことから、本研究では、(1)物権変動の実体法(民法物権法)ならびに(2)手続法(不動産登記法)への影響にターゲットを絞って検討を行った。 (1)物権変動の実体法への影響に関しては、たとえば民法95条の錯誤の効果が取消しになり、また第三者保護規定が新設された結果(改正民法95条4項)、「無効と登記」「取消しと登記」の論点に関するこれまでの議論は、一大転換を迫られることとなった。だが、とりわけ表示錯誤(民法95条1項1号錯誤)に関しては、理論上は無効の効果も依然として導出されるため、無効と取消しの二重効の問題が、民法177条の適用問題に影響を与えることとなる。 (2)物権変動の手続法(不動産登記法)への影響に関しては、契約法規定の改正――たとえば消費貸借につき、従来の要物契約とは別に、諾成・要式契約のオプションが増えたことが、消費貸借契約から生ずる再建を被担保債権とする担保権(抵当権など)の設定登記の登記原因証明情報や、登記申請の可能となる時期等に多大な影響を与える。保証契約の改正に関しても、同様である。 こうした問題につき、本研究では、専門誌等で発表を行ったほか、権利に関する登記の申請を専門とする司法書士との間で討論を行い、また司法書士会等の講演において、登記実務に及ぼす影響を発表した。
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