研究課題/領域番号 |
15K03212
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小池 泰 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (00309486)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 親子 / 嫡出否認 |
研究実績の概要 |
本年度は、「実親子関係の成否の基礎にある原理・利益とその衡量」について、包括的・基礎的・歴史的な調査を進める予定であったが、具体的なテーマを中心に据え、そこから原理・利益とその衡量の具体的な現われを検討することにした。 具体的には、「嫡出否認制度の改革提案」をとりあげて、まず、①現行法の基礎にある原理・利益とその衡量を明らかにし、その上で、②改革提案は現行の衡量の仕方のどの点を改めようとしているのか、また、新たにいかなる原理・利益を導入しようとしているのか、という点を明らかにすることにした。その際、1997年に嫡出否認制度を大幅に改正したドイツ法とその後の展開を比較法の対象として取り上げた。 以上の検討により、嫡出否認制度の改革の原動力となったのは、子の利益の重視にあることが判明した。もっとも、ドイツ法は子の出自を知る権利という概念が決定的役割を果たしているのに対して、日本法では、「推定の及ばない子」を認めて嫡出否認制度を迂回する方途を承認した判例の事案が、実質的に、否認の提訴権者の制限を緩和して子の否認権を認めたのと同じと評価できるにすぎず、否認権者拡大の基調にドイツ法のような理念があるかは明確でない。とはいえ、子の利益を重視する点に変わりはない。本年度の研究では、以上の分析を踏まえ、子の利益の対抗となる利益はないか、という点を検討した。その際、否認奏効まで子の法的父であった者の利益の要保護性及び否認奏効の場合に回復すべき利益に焦点をあてた。提訴権者を拡大し、とりわけ父とされてきた者の意思によらずに法的父子関係を覆すことを認める場合には、その者の利益を事後的に調整する仕組みが必要となる。とりわけ、現行法ではこの点の認識が十分でなく、今後もさらに検討する必要があるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要でも述べたように、本年度については、当初の基礎的考察を包括的に進めるアプローチから、個別具体的論点から基礎的な原理・利益とその衡量の全体像をあぶりだすアプローチに変更した。これは、本研究の今後の進め方にとって有益だったと思われる。というのも、実親子関係の成立・否定の制度は、個別の論点に即して細かい利益衡量が行われており、概括的に原理・利益を抽出するのでは、焦点のぼやけた分析にとどまってしまうからである。本年度、嫡出否認制度の改革提案に絞って検討を試みたことで、実親子関係の否定についていかなる原理・利益とその衡量が前提となるかが、その実例に即して明確に分析することができた。本年度のこの分析結果は、次年度以降の分析の指針として十分なものといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の成果を踏まえ、平成28年度は比較法的素材の検討を行う。具体的には、実親子関係の成立・否定の基礎にある原理・利益とその調整について、日本・ドイツ・オーストリアの包括的比較を行う。とりわけ、従前の日本法の議論で意識されていなかった原理・利益の抽出、及び、調整の枠組み(いかなる原理・利益に重心を置くか)に注視する。ドイツ法とオーストリア法の展開は比較的並行しているものと評価できるが、細部は異なる。出自を知る権利という概念はドイツ親子法の近時の改革を牽引する役割を担っているが、オーストリア法ではそれほど重視されていないようにみえる。にもかかわらず、改正はほぼ同じの方向性にあるといってよい。ここには、原理・利益の評価に係る差異とその法文への具体化をめぐる重要な問題があると思われる。そこで、ドイツ・オーストリアの近時の動向について、それを牽引した原理・利益に着眼して分析することにしたい。
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