本研究では、実親子関係の成立・否定ルールに係る原理・利益の再調整について、検討を行った。 民法上、実親子関係の成立・否定ルールとしては、生来の嫡出父子関係に係る嫡出推定制度(772条)と嫡出否認制度(774条以下)、非嫡出父子関係に係る任意認知制度(779条)・反対事実の主張(786条)と認知の訴え(787条)がある。これに加えて、母子関係については、明文の規定はないものの、772条は子を妊娠・出産した者を子の母とするルールを前提としているとされている(判例・通説)。親子の関係は、子の出生の時点から始まる点で、出生時に成立させるのが望ましいところ、母子と嫡出推定はまさに出生時に親子関係を成立させ、また、任意認知(胎児認知)も可及的にそれを実現させるものとなっている。もっとも、生来の嫡出父子関係については、判例・戸籍実務上の「推定されない嫡出子」に係る成立ルールを補う必要があり、また、判例の「推定を受けない嫡出子(推定の及ばない子)」を嫡出推定制度にいかに取り込むか、が問題となる。任意認知制度についても、未成年子を認知する場合に、本人・その法定代理人あるいは母の関与なしのままでよいか、批判がある。これに対して、親子関係を否定するルールについては、嫡出否認制度における制約が厳しすぎるとの指摘がある一方で、任意認知に係る反対事実の主張に制約がなさすぎることをはじめ親子関係不存在確認の訴えによる否定に一切の制約がかからない点に疑問が示されている。本研究では、このうち最も議論の蓄積のある嫡出推定・否認制度に焦点をあてて、その基礎にある原理・利益を明らかにするとともに、実親子関係の成立・否定のルールを再構築する際にいかなる利益・原理の衡量をすべきか、検討を行った。
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